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Common issues in writing~動植物の英語名の表記~

ローカライゼーション
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H. Oikawa

インバウンドマーケティング事業部の追川です。

これまで、弊社のアメリカ出身のエディターであるキャサリンの経験に基づき、英語解説文制作時の課題や提言を2回のブログ記事にまとめて発信してまいりました。今回はそのシリーズの最終回として、動植物の英語名の表記方法についてお話させていただきます。

第1回:「Please, Don’t Write about the Four Seasons ― 「四季」を強調する観光マーケティングの問題点
第2回:「国・文化が異なれば、自然の観光資源に対する見方も異なる~自然スポットを外国人観光客に紹介する際の留意点~

本題に入る前に、改めてキャサリンの実績と経験について紹介させていただきます。

彼女はこれまで観光庁の「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」において、今年度も含めた5年間にわたって日本各地の国立公園の英語解説文を執筆・編集してまいりました。
令和2年度には、上記事業において彼女がエディターとして制作に参加した『大山隠岐国立公園「蒜山の草原:蒜山の山焼き」』の解説文が、全2,169点の解説文の中から計2点のみが選ばれる優良解説文に選定されました。
(参考:「令和2年度、観光庁多言語事業の「優良解説文」に選定されました」)

それでは、本題に入らせていただきます。

3通り存在する主な表記方法

動植物の名前を英語で表記する際には、主に以下の3通りの表記方法が存在します(例はクロマグロの表記方法)。

1. 和名をローマ字で表記する(例:Kuromaguro
2. 英語の学名で表記する(例:Thunnus thynnus
3. 英語の通称で表記する(例:bluefin tuna

論文では2の学名表記が正しいとされていますが、観光客向けのパンフレットなどにおいては、これらのどれを選択しても間違いではありません。そのため、解説文制作にあたってはこれら3通りのうち、どの表記方法を選択するべきかという課題が頻繁に発生します。

このような場合、弊社では「想定される読み手によって使い分ける(もしくは併記する)」という判断基準で対応しています。

1の「和名をローマ字で表記する」は、日本語の知識が無い外国人にとっては馴染みの無い単語になるため、覚えにくい、そして読みにくいという現実があります。

2の「英語の学名で表記する」という方法は論文でも優先して使用され、和英辞典などで引いても最初に出てくることが多い表記方法です。そのため、お客様からはこの表記方法を使用した解説文制作を求められることが多くあります。しかし、日本語同様、英語でも学名表記に対しては堅苦しい、難しい、馴染みが無い、ピンとこないという意見を持つ人が数多くいます。

そのため、弊社が主に行っている観光客向けの解説文制作においては、一般の外国人観光客にとって理解しやすい表記方法となると、消去法で最も馴染みやすい3の通称を選択するケースが自然と多くなります。

※余談ですが、上記の3通りの表記方法にそれぞれ記載した例のうち、1と2のみがイタリック体になっていますが、これには理由があります。それは、「外国語を英語アルファベットで表記する場合や、外来語由来でまだ英語に定着していない(=英語の辞書に載っていない)言葉はイタリックで表記する」という英語の一般的な共通ルールが存在するためです。
例えば、sushiやsamuraiといった言葉は既に海外でもよく知られ、英語の辞書にも載っているため、イタリック体で表記する必要はありません。

英語圏に存在しない種には、英語の通称は存在しないのでは?

基本的には通称で表記することが多いものの、そう単純に解決できるケースばかりではありません。よく直面する問題として、「動植物には日本やアジア固有の種も多く、英語にはそういった種の通称は存在しない」というケースが存在します。
以下は、前述の観光庁事業である国立公園の解説文制作を担当させていただいたときのお話です。

その国立公園に自生する数多くの植物のなかに、「コマクサ」という和名の植物がありました。

コマクサは日本の中でも寒冷な地域~ロシアのカムチャッカ半島辺りに存在する植物で、それ以外の地域で見かけることはないとされています。そのため、世界共通で使用されている英語の学名として”Dicentra peregrina”という名前は存在するものの、英語の通称は存在しません。
当然、存在しない名前は使えません。そこで、こういった場合には、[和名のローマ字表記]+(学名)、もしくは、[生物の分類学上の科]+[(学名)]という方法で対応します。

コマクサの例では、以下の2つのうちのどちらかで対応するということになります。

1. [和名のローマ字表記]+(学名):komakusa (Dicentra peregrina)
2. [生物の分類学上の科]+[(学名)]:a species of bleeding heart (Dicentra peregrina)

馴染みの無い通称も存在する?

ここまで、「和名や学名よりも通称の方が馴染みがある」という前提でご説明してきました。

すべてにこの前提が当てはまれば楽なのですが、「通称が存在しながら、実はその通称が一般的に聞き馴染みがない」というパターンも現実問題として多く存在します。

例えば、ニホンカモシカには”Capricornis crispus”という学名と、”serow”という通称が存在します。しかし、キャサリンや弊社内の英語ネイティブに聞いても、serowと聞いても何のことかピンとこないという回答が返ってきます。

こういった場合には、[通称]+[説明文]という表記方法を採用するのが、読み手にとって最も理解しやすいと弊社は考えています。

つまり、”serow, an animal with cloven hooves that resembles a shaggy antelope…”(和訳:serowと呼ばれる動物は、カモシカのような蹄鉄を持つ動物で・・・)というような文章となります。

知らない言葉だらけの文章にならないように注意

日本語でも、よく「カタカナだらけでわかりにくい」と言うと思います。これはつまり、馴染みの無い言葉が多すぎて、文の意味が理解できないということでしょう。

観光客向けの解説文も、英語で日本のことを説明している文章なので、どうしても英語話者にとっては馴染みの無い言葉が多く含まれてしまう場合があります。

このような事態を避けるため、全体のバランスを考慮しながら、聞き馴染みの無い言葉の羅列にならないよう、表現を工夫したり、場合によってはトピックを2つの解説文に分けて書いたりなど、ネイティブのライターやエディターによる調整が必要となります。

最後に

英語解説文において議論が起こりやすい、動植物の表記方法について、弊社で経験した過去の例を使いながら説明させていただきました。

どんなパターンでも、根底に存在する共通の考え方は、「外国人観光客がそのトピックについて理解する手助けになる解説文を作る」という点です。
「間違えていなければ、それでよい」とできないところが解説文制作の難しいところであり、同時にネイティブによる判断が必要とされるポイントでもあります。実際、「聞き馴染みがあるかどうか」は最終的に制作者側の主観で判断せざるを得ません。

だからこそ、より正しい判断ができる可能性が高い、執筆・編集経験が豊富な、その言語のネイティブスタッフによる作業が必要だと弊社は考えています。

多言語化に関するご相談などがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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