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Please, Don’t Write about the Four Seasons ― 「四季」を強調する観光マーケティングの問題点

ローカライゼーション
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Catherine

2022年06月07日

ライティングチームでライター・エディターを務めているアメリカ出身のキャサリンです。

日本に住んでいると、広告やガイドブック、ウェブサイトなどで「四季」を強調したものによく出会います。 「美しい四季の魅力」、「四季折々の日本の絶景」、「四季の彩り豊かな自然」、「四季折々にさまざまな姿が楽しめる」といった決まり文句は、日本のそこらじゅうに溢れているように感じます。 

カラフルなお花畑の写真
「春の美しさが溢れる・・・」といったキャッチコピーが付きそうな写真

「四季」と聞くと、頭の中にさまざまな連想が浮かぶ日本人?

これらの日本の四季を強調したプロモーションの根底にある考え方は、日本人が持つ豊かな文化遺産が関係しているでしょう。
芸術、詩歌、衣食住、余暇などにおいて、季節感は非常に重要な要素です。そして、これらの活動と四季の結びつきの強さは、何世紀にもわたって日本人のアイデンティティの一部を形成してきました。
日本人は四季について語るとき、無意識のうちに、単純な気候の変化や、木から葉が落ちることのような表面的現象以上のことを頭の中で想像する習慣があるな、と私は感じます。
例えば、春の暖かい日に、友人や家族と美しい桜の木の下で時間を過ごす喜びは、四季の一部として理解されています。また、栗やサツマイモなど秋の味覚を待ち望むように(9月になるとスーパーに並ぶパンプキンスパイス味の食品を待ち望むアメリカ人と同じように)、四季とともに味覚もあわせて連想されることがよくあります。
さらに、桜は「儚さ」、ススキは「秋の訪れ」を感じさせるなど、日本の「四季」という言葉には独特の文化的概念があります。そのため、日本語の雑誌の記事で「季節を感じるデザート」と書かれているのを見たとき、日本人の読者であれば、単に気温や日照時間の変化を感じるというだけの意味ではないことは容易に理解できるでしょう。

四季に対する感覚のギャップ

しかし、海外からの旅行者や顧客に対してマーケティングを行う場合、この「四季」を強調するアプローチには2つの理由で非常に問題があります。

まずは、「四季折々」という言葉から日本人が連想する季節感や年中行事などといった概念を、多くの外国人が共有していないという点です。
「四季折々にさまざまな姿が楽しめる」というフレーズは、英語にすると”the weather is different at different times of year”や”the temperature changes as you travel far north”といった文章となります。これらはごくごく当たり前のことを説明している単純な文章に過ぎず、特に面白みが感じられません(かといって日本人が持つ「四季折々」の概念を説明しようとすると、非常に長い説明が必要となってしまうため、得策とは言えません)。これらを得意げに説明したところで、多くの外国人には「そんなのどこでも同じだろう」と思われる可能性が高いでしょう。
また、四季が日本特有のもののように語られることがありますが、実は世界には日本と同じくらい四季の違いがはっきり存在する国も多くあります。むしろ、東京のような日本の大都会よりも、外国の田舎町や小さな都市に住んでいる人々の方が季節の移り変わりをダイレクトに体験できる場合も多くあるでしょう。そのため、例えば日本の国立公園を「四季の移ろいを感じることができます」という謳い文句で宣伝しても、日本人が期待しているほど外国人に響かないという現象が発生します。

「四季」を強調するアプローチが外国人観光客にあまりアピール効果が無い2番目の理由は、日本を訪れる外国人の多くが短期滞在者であることです。
日本の国立公園のウェブサイトに、四季折々の公園の風景やアクティビティを紹介するコーナーがある場合、国内在住者であれば、自分が一番訪れたい時期をある程度柔軟に決めることができます。また、複数の異なる季節のアクティビティや風景を体験したいと思えば、複数回訪れることはそこまでハードルの高いことではありません。
しかし、外国人旅行者は、訪日時期について、ここまでの柔軟性を持ち合わせていないケースがほとんどです。外国人観光客のほとんどは、仕事のスケジュールや航空券の値段などといった事情を優先的に考慮しながら訪日旅行を計画します。そのため、訪れるスポットの季節性の問題は、訪日が決定した後に初めて考慮されるということになります。
つまり、四季のうち一つの季節しか見るチャンスが無い、遠くの国からやってくる外国人観光客に対して四季の移り変わりを訴求しても、期待しているような反応は得にくいというわけです。

「四季」よりもアピールすべき点

このような理由から、私は解説文を制作する際、外国人観光客にアピールを狙う観光地や企業に対して、ウェブサイトのコンテンツや広告のコピーに「四季」という表現を使わないことをおすすめしています。そしてその代わりに、そのスポットや商品の全体的な強みを訴求することをおすすめしています。
例えば、国立公園であれば、ハイキングコースの多様性、その土地の山の珍しい火山性地質、杉の古木など、季節に関係なく年間を通じて楽しめる事柄が強みとなります。また、冬のスノーボードや春の野草で有名な国立公園の場合でも、ウェブサイトのコンテンツを「春」「夏」など季節ごとに分割せず、それらに言及することは可能です。
国立公園以外の例でも、例えばある和菓子屋さんが季節の花や果物の形をした生菓子を作っていることを外国人に伝えたい場合は、「四季を感じるお菓子」という婉曲的な表現ではなく、個々の生菓子に「このお菓子は春に咲くXXの花をモチーフとしているため、春を連想させる商品である」のように直接的な表現で説明を行った方が、バックグラウンドの異なる外国人にとってはわかりやすくなります

一面を雪が覆う大地の上を、霧がかかった朝日が照らす美しい風景
「美しい朝の冬景色」よりも、「一面を雪が覆う大地の上を、霧がかかった朝日が照らす美しい風景」などの直接的説明が望ましい

以上、私が来日してから英語解説文の執筆・編集を行う中で感じた、日本人と外国人の間に存在する「四季」に対する理解のギャップについて紹介しました。
同じ場所に長くいる人にしかわからないこともあれば、反対に、同じ場所に長くいることで見えないことや外からやってきた人だからこそ見えることもあると思います。
今後も観光業の発展のために、外国で生まれ育ち、日本の観光の現場に携わらせていただいている自分だからこそ感じられる気づきを発信しつづけてまいりたいと思います。

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