こんにちは、ライティング・コンサルティング部のBrendanです。

このシリーズは題名の通り、翻訳の間違いを避けて良い訳文を仕上げるための4ステップを紹介します。第一弾第二弾では3つ目のステップまで詳しく説明しました。今回は4つ目のステップを説明します。そしてこのステップを抜かせばどんな結果になるか、実際の悪事例を取り上げながら説明します。

ステップ①②③のおさらい

まずは、4つのステップをもう一度見てみましょう。

①原文の理解を確かめる
②文面の理解を確かめる
③対象文の適切さを確かめる
④表現の適切さを確かめる

上記の①は、翻訳のベースとなる原文の意味を正しく読み取っているか確認するためのステップです。英語から翻訳する場合では、例えば

「bleach」(漂白する)を
「breach」(破る)
と読み間違えたり、

「beside」(~の傍に)を
「besides」(~の他に)
と読み間違えたりすることを避けるためのステップです。

このような誤解に気づかないで訳してしまうと、訳文の意味がそうとう変わる可能性があります。しかし、焦らないで原文を熟読すればこのようなミスをしないはずでしょう。

タクシー乗り場の看板で、英語で乗り場を糊場と誤訳している
この英語は機械翻訳により訳されたものに違いありません。
原文を入力する時に気を付けないと、 「乗り場」が「糊場」と訳されてしまいます。

②は原文の意味を正しく読み解けているか確認するためのステップです。

文字そのものを正しく読み取れたとしても、文脈をよく理解せずに翻訳すると間違えやすい言葉が数多くあります。例えば、英語にはスペルが同じなのに意味が異なる言葉がたくさんあり、ネイティブでも時々困惑してしまいます。

一つの言葉が下記のように多くの意味を持っていることはよくあることです。

「bore」(穿つ)                
例:A drill is used to bore a hole through various materials.

「bore」(うんざりさせる)
例:Your sister bored me half to death with her lame stories.

「bore」(つまらない人)  
例:I do detest having tea with Henry; he is a terrible bore.

「bore」(口径)              
例:The “caliber” refers to the measurement of the barrel’s bore.

「bore」(潮津波)             
例:The sandcastles were all quickly destroyed by the tidal bore.

「bore」(担った)           
例:We bore our hardships silently, for we had chosen to bear them.

上記の例文には古い表現や専門用語が混ざっているので、普段出会わない意味と混乱し、訳し間違えやすいでしょう。「うんざりさせる」という意味で書かれた「bore」を「穿つ」で訳したり(またはその逆に訳したり)すると、意味がかなり変わってしまいますね。

セルフサッキングコーナーと書かれてた、包装用のテーブル
カタカナ語はよく気を付けないと間違えることがあります。
「サッキング」は多数の意味を持っているので、 ②を徹底しないと「自分で包装」は「自己吸引」になってしまいます。

このように、①と②は文字の正しい読み取り、正しい理解を確認するためのステップです。しかし、原文を完璧に理解しているとしても、その意味を対象言語にする際に考慮すべきことがあります。それは対象文の適切さです。

例えば、英語の「take」を日本語では「取る」と訳しますが、「take a test」という英語を日本語に訳せば「試験を取る」にはならないでしょう。

「Test」 = 「試験」
「Take」 = 「取る」
「Take a test」≠ 「試験を取る」

つまり、単語としての翻訳があっているとしても、対象文全体が間違っている可能性はまだあります。

My breast swelled with hopeとロゴが入った洋服
「胸」=「breast」ですが、 そのまま訳せば 「胸が膨らむ」は
「おっぱいが膨らむ」という意味の英語になってしまいます。

さて、この①、②、③を徹底したら間違えることはもうないのでは?と思われるかもしれませんが、実は最後の「表現の適切さを確かめる」ステップはもっとも重要なステップと言えるのではないでしょうか。

表現の適切さとは?

簡単に言えば違和感の有無を指します。①から③までのステップをちゃんと踏んだからといって、翻訳文が適切であるとは限りません。場合によってこの問題は「翻訳」「ロカリゼーション」の違いともいえるかもしれません。

この④については色々な要素が含まれています。まず、翻訳としては問題ないのに文化的な面で表現がおかしいということがあります。「お世話になっています」という日本語は簡単に英語化できますが、そもそもその表現は英語に存在しないためどんな場面で使っても違和感しか与えません。

そして、翻訳文が意味的に正しい場合でも、文脈的にはずれている可能性もあります。翻訳家が対象文の文脈を分からずに翻訳するとよく発生する問題です。

例えば、もともと英語で作られた「ニューロボイダー」というゲームの日本語版が制作された際に、このようなミスが起こりました。

ゲームの画面で「リアクターがはかいされました」という表示が出ている
「リアクターが破壊されました」
(提供:Legendsoflocalization.com)

本来、この文は破壊されたリアクターの数を示す英語だったのですが、その英語が文脈から取り除かれたら数の要素が分からなくなります。

このようなミスにより、時々印象的なセリフが誕生します。1990年にアメリカで発売された「ピットファイター」という対戦型格闘技ゲームが日本語にされた際に、「表現の適切さ」が確認されなかった結果、面白い日本語ができてしまいました。

「残虐行為手当」と表示されているゲームの画面
「残虐行為手当」
(提供:Legendsoflocalization.com)

この一文はもともと英語の「brutality bonus」で、相手が倒れた後に与えたダメージに対するボーナスですが、日本語にされるにあたってこのあまりに変な熟語になりました。そして、そのフレーズが他のゲームやグッズにも現れるようになりました。決して目指すべきことではありませんが、おかしさで有名になるのはゲームなりの成功なのではないかと思います。

これで、ブレンダンの翻訳方法論は以上になります。

上記で触れた4つのステップを適宜に踏みながら翻訳すれば、いいものを作りあげられるでしょう。そして翻訳をしている途中で「んっ?」と思って自分の訳語に対して疑問が湧いてくれば、①から④までのステップを確認することであらゆる間違いを探し出せるはずだと思います。

最後にまとめると、翻訳をしている時に次の4つの質問を自分にしてみましょう。

①私はこの文を正しく読み取っているか?
②私はこの文を正しく理解しているか?
③対象言語の各文の中で、言葉に対して違和感がないか?
④対象言語の各文の全体に対して、違和感がないか?

そのすべての質問に「yes」と答えることができていればよいのです。

翻訳の経験をしたことがない人にとっては、A語をB語にするという作業は単純なものだと考えている人が多いのではないでしょうか。それは、翻訳家の頭の中が見えず、資料の原文が完成品の訳文にされるプロセスも見えていないからでしょう。また、翻訳家であっても、「翻訳は単純だ」という誤解を信じてしまい、単純な翻訳しかできない人もいるのではないでしょうか。そのような人は、だまされないでほしいです。

上記のステップはあくまで私が自分で利用している個人的なプロセスに過ぎません。しかし、このブログを読んだ人が自分のやり方について意識を高めて、「完璧な翻訳とは何だろう?翻訳の質はどうやって向上させられるだろう」という質問に立ち向かってみて頂ければと思います。

読んでくれてありがとうございます。