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エディターズコーナー落し穴に陥らない:翻訳ミスを避けるための4ステップ [第二弾]

ローカライゼーション
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B. Craine

女性が鉛筆を口にくわえて、ノートパソコンをみながら悩んでいる様子

こんにちは、ライティング・コンサルティング部のBrendanです。

前回は、いい翻訳をするにはどのようなプロセスを踏めばいいか?というテーマを取り上げました。翻訳をする時には、4つのステップを踏むことで、ミスを最小限に抑えられ、いい結果が出せるということでした。その「4ステップ」は下記の通りです。

  1. 原文の理解を確かめる
  2. 文面の理解を確かめる
  3. 対象文の適切さを確かめる
  4. 表現の適切さを確かめる

前回は①と②をそれぞれ説明させて頂きましたが、今回は③について具体的な例を紹介しながら説明したいと思います。

ステップ①②のまとめ

まず、第一弾を読んでいない皆さんのためにプチおさらいをしましょう。
①は「原文の理解を確かめる」ということで、要するに漢字を読み間違えたり、表現を文字通りの意味で理解したり等の言葉的なミスをしていないかという確認です。

例えば「取捨」を「取拾」と読んでしまうことや、「手を焼く」という表現を、実際に手にやけどしたように解釈することは「原文の理解」が足りていないという意味です。

原文の理解が大切な例として、消火器の英語が間違ったdigestive organと記載した張り紙。本来はfire extinguisherが正しい英語
「原文の理解」を徹底しないと、fire extinguisher(消火器)
のことをdigestive organ(消化器)として訳してしまう

そして②は「文面の理解を確かめる」ということで、言い換えて「辞書をあてにしない」ということでもいいでしょう。

例えば、小説を読んでいる時に、その主人公の60歳くらいの会社に上司が居酒屋で、「もうそろそろ潮時だろう」とつぶやくシーンを読んで、その人が退職を考えていることがすぐイメージできれば、その文面を十分に理解しているという意味です。一方で、「船乗り」をイメージした人は、文面をよく理解していないことが分かります。これは日本(原語の)文化をしっかり分かっているかどうかという問題です。

しかし、翻訳家が馴染みのない言葉に出会った場合でも、例文を読んだり、日本人に相談したりするという解決策がありますので、きちんと理解をせずに訳すことはありません。

文面の理解の例として、エビのてんぷらの写真。本来「アジアの心」と翻訳すべきところを、あやまって「アジアの心臓」と訳してしまっています。
「文面の理解」を徹底しないと、
「アジアの心」を「アジアの心臓」として訳してしまう

さて、①と②を確かめた後は、その意味を対象言語に変える段階ですね。

「対象文の適切さ」とはなんでしょう?

ここまでのステップは、原文の意味を正確に理解していることを確かめるためのものでした。ここからは、対象言語に変換することに伴うプロセスです。「対象文の適切さ」を平らにいうと、原文の意味を持ついろいろな言葉から最適な言葉を選ぶという意味です。

ここで一つの例を挙げます。

英語の「frustration」を日本語でどのように訳せばいいでしょうか?

辞書で引いてみると「挫折感」、「失望」、「欲求不満」、などの日本語があるうえに、そのまま「フラストレーション」というカタカナ語もあります。どの言葉を選べば一番いいでしょう?「frustration」という一言しかなければどれが一番適しているか分かりません。その英語が出ている文面を見てみないと行き詰ってしまいますね。

近年、Amazonなどの通販サイトが梱包材の消費を削減して、開梱を簡単にするために新しい包装を売り出しました。これは英語でfrustration-free packagingと言います。

amazonの従来の梱包と新しく開発されたフラストレーション・フリー・パッケージの画像が左右に並んでいる画像です。
従来の包装と違って、frustration-freeは簡単に開けられて、
不要な緩衝材を使わないパッケージです。

日本語に翻訳する際に、「frustration」の意味に該当する日本語の中で、どれが最適か考える必要があります。

失望しない包装?
無挫折包装?
欲求満足包装?

どれもおかしいですね。

ここでは「フラストレーション」しか使えなさそうなので、カタカナでそのまま「フラストレーション・フリー」を使うという結果になります。そして、後半もカタカナを使わないとおかしくなりますので、packageも「パッケージ」になります。実際にAmazonで使われている日本語は?

Amazonのサイトで記載している、フラストレーション・フリー・パッケージと記載された画像です。

一方、契約書などの文面で「frustration」をまったく違う日本語に訳すことがあります。

例えば、アメリカではコロナ禍で景気が後退し、多くの人々は衣食住が守れなく、家賃を払えなくなった状況になっています。普通は家賃が払えなければ立ち退きなどに繋がりますが、このような不可抗力な災害が発生した場合のために、ある契約には特別な条項があります。法律用語ではこれを「債務の履行不能」と言われますが、英語ではfrustrationと言います。

では、frustration of contractという英語を翻訳するなら、どの日本語が適切でしょう?

契約のフラストレーション?
契約失望?
契約欲求不満?

この場合は「契約の後発的履行不能」といった日本語がいいでしょう。

ちなみに、第一弾で飼っているウサギの状態を獣医さんにうまく説明できない私の状況と、その時のウサギの状態を両方とも英語でfrustrationと言います。翻訳するとそれぞれ違う日本語になります。

「対象文面の適切さ」とはまさに、このような言葉の絞り込み

原文が分かっていても、その訳文がどんな文面なのか考慮しないと、「契約失望」のような変な訳を出してしまう可能性があります。翻訳家はたいていこの③を無意識に確かめています。しかし、「対象文面の適切さ」を見誤ると相当おかしい訳文が生まれてしまいます。

次回は欠かすことができない最後のステップ、「表現の適切さ」の確認について説明します。