「インタープリテーション全体計画(IP全体計画)」をご存知でしょうか?
それは、地域の自然や文化が持つ固有の意味や価値を、より深く、分かりやすく来訪者へ伝えるための総合的なデザインアプローチです。資源に込められたメッセージやストーリーを整理し、体験コンテンツの造成やメディア発信手法などを体系的に計画するための基盤となるものと言えるでしょう。近年、国立公園や文化遺産だけでなく、観光地以外の多様な地域・エリアでも、この全体計画の策定が活発化しており、大きな注目を集めています。

弊社の取り組み
弊社は、観光庁の「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり事業」でモデル観光地に選定された《鹿児島・阿蘇・雲仙エリア》における、高付加価値インバウンド誘客の取り組みに参画しています。この一環として、3エリア共通の「インタープリテーション全体計画」(日本語版・英語版)の制作を担当させていただきました。
昨年度は、共通ブランディングテーマである「Living with Volcanoes ~火山とともに生きる~」に基づき、3エリアの資料リサーチ、現地調査、ヒアリングを実施し、「九州ボルケーノツーリズム・IP全体計画」を日英両バージョンで制作いたしました。
そして今年度は、IP全体計画の地域への浸透と活用促進を目的として、鹿児島・阿蘇・雲仙の各エリアで2回ずつ(計6回)の地域ワーキングおよびセミナーを実施しました。弊社が事務局を担当し、3エリア合計167名(延べ人数)の方にご参加いただきました。
「九州ボルケーノツーリズム・インタープリテーション(IP)全体計画」活用アイデア会議 全6回開催概要

| 日 程 | 時 間 | 会 場 | 概 要 |
|---|---|---|---|
| 8月21日(木) | 13:00~16:00 | 雲仙エリア @雲仙BASE | ワーキング |
| 9月10日(水) | 13:00~16:00 | 阿蘇エリア @阿蘇市農村環境改善センター | ワーキング |
| 9月11日(木) | 13:00~17:00 | 鹿児島エリア @鹿児島市国際交流センター | セミナー、ワーキング |
| 9月22日(月) | 13:00~17:00 | 雲仙エリア @雲仙BASE | セミナー、ワーキング |
| 10月21日(火) | 13:00~16:00 | 鹿児島エリア @サンプラザ天文館 | ワーキング |
| 10月22日(水) | 13:00~17:00 | 阿蘇エリア @阿蘇市農村環境改善センター | セミナー、ワーキング |
本取り組みでは、各エリアにおいて、主に「IP全体計画ブラッシュアップ・ワーキング」(①~③)と「セミナー」を実施しました。内容や順序は各エリアで多少異なりますが、その様子をご報告いたします。
IP全体計画ブラッシュアップワーキング
本ワーキングでは、日本インタープリテーション協会の川嶋直氏によるファシリテート(進行)のもと、「九州ボルケーノツーリズムIP全体計画」を、地域の皆さんがさらに活用し、使いやすくするためにはどうしたらよいか、具体的な方法を検討しました。様々な業種・視点を持つ参加者で構成されたグループ(混成グループ)を作り、活発な議論を展開。たくさんのアイデアと具体的なご意見をいただきました。ワーキングは、以下の3つのテーマに沿って実施しました。
①「IP全体計画の大きな枠組み・方向性について」
「どのような見せ方をすればIP全体計画を活用しやすくなるか」「変更・追加したい点はあるか」といった点について、グループごとにディスカッションを行いました。参加者の皆さまには、出たアイデアをA5用紙に自由に書き出していただき、それらを壁に貼り出し、カテゴリ分けしながら全体で共有しました。
【各エリアから寄せられた具体的なアイデア(一部)】

●雲仙エリア:火山に関する情報の項目について、「イラストや図式化することで、もっと見やすくなる」との意見。コンテンツに関しては、「特別拝観などの魅力を掲載したい」「温泉の泉質の違いも記載してはどうか」といった具体的な提案がありました。また、構成については「全体を通して”人”の要素が少ない印象。もっと地域の”担い手”に焦点を当てるのも面白い」という、深掘りしたアイデアも寄せられました。

●阿蘇エリア:「どんな人に、どのように使ってもらいたいのか」を冒頭に明記するべきとの意見や、より地域に根付いた”食”として馬刺しなどの情報を加える提案がありました。「水の違い」を深掘りし、「水脈によって水の硬度が異なり、お米の品種にも影響している」といった、地域ならではのアイデアも出ました。

●鹿児島エリア:活用を具体的にイメージするための提案が多く、「ガイドに聞かれることをまとめた”よくある質問”ページを追加してはどうか」や、「冒頭に、活用方法の具体例を載せたページを用意した方が良い」など、現場目線で役立つ改善点が多数挙げられました。
②「IP全体計画に掲載するネタの精査」
昨年度制作したIP全体計画の該当ページを参照しながら、高付加価値旅行者の視点から見た「おすすめの場所や体験」「地域資源」「来訪者に体験してほしいこと」などについて、グループごとにディスカッションを行いました。
そして、「追加したい情報」や「入れ替えたい情報」など、具体的な編集箇所を参加者の皆さまに示していただきました。

●雲仙エリア:特に「サステナブルな暮らし・食文化」に関する項目で、地域に根ざした質の高い情報が集中的に寄せられました。

●阿蘇エリア:グループ内で話が弾むにつれて、「もっと掲載したい阿蘇の魅力」が次々と湧き出てくるようでした。用紙に収まりきらないほどのアイデアが書き出され、阿蘇の豊かな資源と熱意が感じられました。

●鹿児島エリア:エリアが広範囲にわたる特性上、「このエリアのこの情報を入れたい」という要望が多く出ました。
③「IP全体計画の活用方法のアイデア出し」
IP全体計画は、策定して終わりではなく、地域で活用しながら、皆で育てていくことが重要です。そこで、計画を多くの方に知っていただくための普及方法や、具体的な活用方法について、グループで活発に話し合いました。
出てきた様々なアイデアをA4サイズの用紙に書き出し、前方の壁に掲示しました。その中には、実現すればワクワクするような、ユニークで創造的なアイデアが多数含まれていました。

●雲仙エリア:「日本語学校での配布」「IP検定の創設」といった、計画を学ぶ仕組みづくりのアイデア。「日本火山学会に入会し、学会で発表する」など、専門分野への発信を目指すワクワクする提案が出ました。

●阿蘇エリア:地元の若者を巻き込んだ、ユニークな連携アイデアが特徴的でした。「阿蘇高森高校マンガ科にマンガ化してもらう」「阿蘇中央高校探究科でテーマとして深掘りしてもらう」といった、学校教育と連携し、次世代が計画を”もむ”アイデアも出ました。また、「協会・組合での勉強会」といった実践的な普及方法も挙げられました。

●鹿児島エリア:活用対象者を細分化した、多様なアイデアが出ました。単なる配布にとどまらず、旅行者向け、学校向け、飲食店向けなど、ターゲット別の活用方法を提案。さらに、計画の”見せ方”についても「マンガやゲーム形式にする」など、多角的なアプローチが検討されました。
セミナー:「ななつ星in九州」~九州から世界につながる列車~
各地域では、ブラッシュアップ・ワーキングと並行して、特別なセミナーを開催しました。
講師には、JR九州クルーズトレイン本部より、小川次長をお招きしました。小川次長は、2013年10月に運行を開始した日本初の豪華クルーズトレイン『ななつ星 in 九州』の立ち上げから携わられた方です。
セミナーでは、具体的な内容の詳細は割愛させていただきますが、「ななつ星」という高付加価値な事業を立ち上げるまでの貴重なエピソードや、クルーの方々が最も大切にしている心構え、そしてお客様から寄せられた感動的な言葉など、示唆に富むお話を多数ご紹介いただきました。



全体を通して
一連の地域ワーキングおよびセミナーでは、座学(セミナー)、参加者同士のディスカッション+アイデア出し+全体共有(ワーキング)といった手法を組み合わせて実施しました。これにより、観光に携わる多岐にわたる分野の方々と共に、IP全体計画を地域で活用していくための計画自体の改善点について、具体的に検討できました。
弊社は、九州の火山が持つ可能性を地域の力で引き出し、世界を魅了する体験へと昇華させていくことを目指す「九州ボルケーノツーリズム協議会」と引き続き連携してまいります。そして、地域で実際に活用され、育てていけるIP全体計画の制作と、その普及・定着に貢献していきたいと思います。