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チェンマイへ行ってきました

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Kenji Takaoka

タイ国政府観光庁(TAT)が主催するワーケーション視察プログラムにお誘いを受けて、3泊5日でタイ北部のチェンマイに行ってきました。

チェンマイは古代王朝(ラーンナー王朝)の都があった街で、自然環境と都市の利便性、物価の安さなどが程よく融合されていて、デジタルノマドの間で近年、急速に注目度が高まっています。

今回のツアーでは、そんなチェンマイの観光資源やワーケーション施設などを中心に視察してきました。

僕自身は、ツアー出発の日にどうしても外せない仕事が入っていたので、深夜便で関西国際空港を出発し、現地では一日遅れでプログラムに参加しました。

以下、時系列で視察の感想などをまとめます。

参加初日(6月10日の土曜日)の午前は、まずホテルに荷物を下ろしてからJing Jai Market(チン・チャイ・マーケット)を視察しました。
チン・チャイ・マーケットは、「オーガニック」をテーマにしたマーケットで、旧市街の北側(徒歩20分程度)にある一画を使って土日のみ(朝6時から午後2時ぐらいまで)開催されています。売られているのは、有機野菜やそれを使った惣菜、ハンドメイドの雑貨などで、よくある東南アジアの露天と違い、より高品質で洗練されたデザインの製品を扱っている店が多く出店している印象を受けました。特にハンドメイドの雑貨については、デザインもモダンなものが多く、SOHOクリエイターのショーケース兼直売所といった雰囲気を醸し出しています。

このマーケットは、後述する別の場所と並んで、比較的「新しい」チェンマイを体現しているのかなぁと感じました。そして、マーケットの中では、Vチューバーと思わしき人が、自撮りスマホを片手に市場内を解説しながら歩いている風景にも多く出くわしました。ガイドさん曰く「中国から製品の買付けに来て、ライブコマースでその場から販売している人が多くいる」そうで、確かにこういった買付けビジネスは、これからもどんどん活発になって来そうです。

チン・チャイ・マーケットの後は、本格的なワーケーション施設の見学です。Alt_ChiangMaiは、チェンマイ旧市街の西の端に位置していて、運営は、6年前に引っ越してきた香港出身のオーナーがタイ人の奥さんと一緒に行っています。利用者の半数は欧米から、残り半数がアジアからという構成で、世界中からノマドワーカーが集まっている雰囲気を感じました。

オーナーがこだわっているのは、仕事と生活にミニマルな快適さがあるという事で、スピードの早いWi-Fiや、長時間座っても疲れない椅子などにこだわっている一方、ハウスクリーニグは1週間ごとに実施して、長期滞在者には大幅な割引(2週間以上で40%、1ヶ月以上で50%)を適用するなど、ノマドワーカーのニーズにあったサービスを提供しています。

標準的な部屋なども見学させてもらいましたが、クイーンベッドがある十分な広さのある部屋で1泊が50~60USドルでしたので、長期滞在の割引を適用すれば、丸々1ヶ月滞在しても日本円では約10万円前後です。それなら、東京で同じ広さの部屋だけ借りる金額と変わらないので、こういった施設を渡り歩くノマドワーカーの人達が増えるのも納得がいくような気がしました。

また、この施設では、利用者同士の交流が起こりやすいような場作りを意識しているという事で、屋上や裏庭にはBBQが出来るようなスペースもあります。利用者の職業は、フリーランスのプログラマーやデザイナーだけでなく、大企業から長期休暇+リモートワークを許されてこの施設に滞在している人もいるという事でした。

Alt_ChiangMai見学後の昼食は、地元の人に大人気のカジュアルなレストラン「3バーツヌードル」に行きました。3バーツヌードルは、その名の通り1杯3バーツ(約12円)という格安のヌードル(スープ入り米粉麺)で、日本のわんこそばのように、一口サイズのお皿にはいったヌードルをたくさん積み重ねながら食べます。普通にお腹が空いている時でも10皿ぐらい食べるとまずまずお腹一杯になるので、かなり経済的な食事ですよね。

昼食の後に向かったのは、ラーンナー王朝時代の伝統文化の体験が出来る施設です。

ラーンナー王朝は、13世紀末からビルマに征服される16世紀半ばまで、現在のタイ北部とラオスにまたがって栄えた王朝で、チェンマイにその都を置いていました。ラーンナーはタイ語で「百万の田」を意味します。(ちなみに、チェンマイは「新しい都」の意味)

私達の為に用意された文化体験は、ラーンナー王朝からの伝統を受け継ぐランタン作りでした。手先が器用でない自分にはなかなか厳しいものがあり、他の参加メンバーが作った同じランタンには仕上がりでもスピードでも遥かに及びません。

文化体験の後は、ワーケーションに関連する施設を更に3ヶ所見学しました。

ひとつ目のTCDCはタイ政府がクリエイティブ産業振興の為に作った図書館兼コワーキングスペースで、最新の施設に個人で揃えるのは難しいと思われる各種書籍やビデオがひしめいています。ゲストは1日100バーツ、メンバーは一年1200バーツを支払えば利用でき、ありとあらゆるデザイン関連の書物や素材などからクリエイターなどがインスピレーションを得やすいように運営が行われています。このあたり、チェンマイがデジタルノマドの聖地と呼ばれ始めていることに納得感を与える施設でした。

また、僕が最も感心したのは、カウンターの上に置かれていた案内板で、Generative AI for Creators(クリエイターの為の生成AI)と書かれたフリーダウンロード用レポートのQRコードが付いています。それを見て、新しい技術的なトレンドにキャッチアップしていく動きは、現在、世界中でほぼ同時に起こっているんだという認識を新たにしました。

その後に見学したSignature HotelとOne Workspaceも清潔でロケーションも良いホテルやワークスペースで、1泊1000~1300バーツ(4~5千円)もしくは1日約200バーツ(800円程度)と、長期での利用も十分な可能な価格設定になっていました。

初日の夕食は、Signature Hotelの近くで同じターペー通りに面したMaadae Slow Fish Kitchen。Maadae(マーデー)は、地元の言葉で「さあどうぞ」というような意味(人を招き入れる時に言う言葉)で、この店は、Slow Fish Kitchenという名前の通り、有機野菜と産地直送の海鮮など安全な食材をテーマにしたレストランです。

土曜日の夜ということもあるのでしょうが、店内は満席で、その味はと言うと、、、、、絶品でした!

夕食後は、土曜日の夜だけに開かれるサタデーマーケットの夜市とその途中にあるワット・シースパン(銀の寺として有名)も見学しました。

夜遅くまで少しハードな見学スケジュールをこなし、初日に宿泊したホテルはイースティン・タン・ホテル。チェンマイの若者が多く集まるMAYAショッピングセンターの向かいに立つホテルです。ホテルに隣接してThink Parkと呼ばれる広場があり、そこにはなんと渋谷の忠犬ハチ公像のレプリカが設置されていました!!

滞在2日目は、中心地の旧市街から少し離れた場所に出掛けました。

午前中に訪問したのは、ホテルから東へ20分ほど車で走ったサンカンペーン郡にあるチャムチャー・マーケット。チャムチャーというのは、市場の中心地に生えている一本の大きな木(レインツリー)の現地名から取った名前だそうです。チャムチャーマーケットがあるサンカンペーン郡は、地元でもアートワークの盛んな町として知られ、世界各国からもクリエイター達が集まってハンドメイドの工芸品やデザイングッズなどを販売しています。

ここは本当に「日本にもこんな場所があったらいいのに!」と思わせられるような個性的なお店が軒を連ねるエリアで、自分としては今回のツアーの中で最も刺激を受けた場所でした。チャムチャーマーケットは、毎週末(土日)の朝9時頃から午後2時か3時頃まで開いているそうです。

そして、チャムチャーマーケットがある通りの端にあるMeena Rice Based Cuisineでランチタイム。このレストランはタイ米を使って様々なタイプの地元料理を提供しています。ミシュランガイドにも取り上げられている有名店で、自然の中に溶け込んだような店の雰囲気も良く、肝心の料理の味は、、、、、やはり絶品でした!!

昼食後には、チェンマイの北(山がある方角)へ向かい、最初に訪れたのはエレファントプープーペーパーパーク。直訳すると、「象のうんち紙パーク」です。ここでは、その名の通り、象のうんちを原材料として紙を漉く体験を提供したり、その紙から作った製品を販売しています。

このパークがテーマとしているのは環境とリサイクルです。象は草食動物で肉を食べない為、そのうんちは乾燥するとまったく匂いません(現地で体験済み)。象は、一日で体重の約10%ほどのエサを食べますが、その40%は排出されるそうで、そのうんちを乾燥させ、4回ほど洗ってから茹でると、ほぼ和紙の原料と同じような繊維の固まりが得られます。それに自然由来の染料を混ぜ、和紙と同様に型の上に流し込んで乾燥(太陽の下で4~5時間)させると、独特の風合いをもった紙が生まれることになります。この紙を、工芸品などの原材料に使用して販売するなど、環境保護と観光を両立させているのがこのパークの役割です。

「象のうんち紙パーク」の後は、いよいよ本物の象に会いに行きます。Maerim Elephant Homeは、象の保護区と観光を兼ねた施設で、ここで体験したのは象に「乗る」ことではなく「お世話をする」(エサを与えたり、洗ったり)という人生初の「大仕事」でした。
現在、野生の(もしくは保護されている)象は、タイ国内で8000頭ほどが生息しているそうです。象は13歳ぐらいで結婚し、約2年の妊娠期間を経て出産します。今回のミッションは、施設で保護されている象についての短い講義を受けた後、バナナのエサをやり、野生の木を潰して作った天然の「たわし」で象を洗ってあげることです。

その後、象たちと一緒に山の中をしばらく散歩し、最後は一緒に池の中に入って、再度、天然たわしで象の鼻や背中を洗ってあげます。途中、こういった行程に文句も言わず付き合ってもらっている象に対して「結構、大変そうだね」という気持ちにもなりつつ、後から写真見たら、とっても喜んでいる自分自身がいました。

象体験の後は、山間部から旧市街まで戻る途中のピン川流域に佇むラヤ・ヘリテージ・ホテルにチェックインしました。

このホテルは、ラーンナー王朝時代の文化を再現する様式で作られていて、世界中で色々なホテルを見てきた自負のある自分でも”One of the best”と思わされるホテルでした。

ホテル全体は38室で全ての部屋がピン川向きに作られており、各部屋のベランダには快適なリラックス空間が設置されています。ラーンナー様式は、ラオス、ミャンマー、中国文化が融合されたもので、各所に竹が多く使われており、自然との融合や癒やしをテーマに作られているのが良く分かります。ホテル自体はまもなく5周年を迎えるそうですが、よく知られたグローバルなホテルチェーンの中に組み込まれている訳ではなく、これだけのクオリティを維持出来ていることに少し驚きました。特にスタッフの接客レベルや食事の素晴らしさについても、非の打ち所が無かったです。次回、チェンマイに戻って来ることが出来たら、また必ずこのホテルに泊まりたい(会社の慰安旅行でみんなを連れて来れたら最高に嬉しい)と思いました。

3日目の朝は、ホテルから電動トゥクトゥクに分乗して市内観光に出掛けました。
タイでの乗り物というとすぐに思いつくのは、その走行時の音から名付けられたトゥクトゥクですが、EVトゥクトゥクはその音も静かです。タイも世界的なEV化への潮流と無縁ではなく、政府が補助金を出してEV化への推進を行っているという事でした。僕自身、しばらくバンコク市内には滞在していませんが、バンコクを思い浮かべると、今でもトゥクトゥクが出す排ガスと油の匂いがセットで思い出されます。それが消えてしまうのは、それはそれで少しだけ寂しいのですが。

電動トゥクトゥクに乗って最初に訪れたのは、ラーンナー様式の建築を今に伝える寺院、ワット・ロック・モーリー(Wat Lok Moli)。この寺院は14~15世紀に当時の王朝によって建立されたもので、500年以上前の建築文化を現在に継承しています。

次に訪れたのは、チェンマイ市立芸術文化センターの正面にある三王記念像です。ラーンナー王朝の歴史の中で、チェンマイがその都に定められたのは、タイ北部の3人の王の平和的な協議の結果であるとして、この場所は地元の人々の巡礼地にもなっています。

当日は、その他にも、地元で人気のレストランや、ハンドメイド製品を販売しているお店などを見学しましたが、どこも世界各国からの観光客で賑わっていました。その中で、僕が一番印象に残ったガイドさんの話は、コロナ前とコロナ以後で、チェンマイの観光産業全体が大きく様変わりしたという説明でした。

チェンマイ市内では、5カ所あったデパートの内、2ヶ所がコロナ後に閉鎖。また、古い年代の日本人には良く知られている(一時期、日本からの観光客の多くが泊まっていた)チェンマイ・プラザホテルもコロナ後すぐに閉鎖。そして逆に、今回、視察に訪れたようなより若い世代を対象にした観光スポットが多く出現しているのだそうです。この動きは、ひょっとしたらタイだけでは無く「世界各国でアップデートされるべきもののスピードをコロナが加速させた」というほんの一例に過ぎないのかも知れない、と思いました。

当日は、この他にもチェンマイで最も有名な観光スポットでもあるドイ・ステープ寺院(Wat Phra That Doi Suthep)にも訪れましたが、この場所の情報は他にもあり過ぎるぐらいあると思うので、ここでの記載は割愛しようと思います。

そして、いよいよ日本へ戻る最終日には、更に新しいチェンマイを象徴するようなスポットにいくつか立ち寄りました。ひとつは世界中の都市にあって見たら立ち寄りたくなるようなオシャレなカフェやチョコレートショップです。どれも、世界的な関心事である環境を意識した説明があり、洗練されたデザインを伴って運営されています。

補足情報として、チェンマイでの現金の使用は、中国などと比べるとまだかなり一般的という印象で、電子マネーでの支払いは(SUICAがない分だけ)日本よりやや少ないぐらいかと感じました。(バンコクとチェンマイでも、だいぶ違いがあるのかも知れません。)

最後に、現在日本からチェンマイへの直行便は、関西国際空港からThai Vietjet Airが週4便を運行しています。また、チェンマイ各地で見かけた野良犬、野良猫は、ラオスのルアンパバーンに行った時と同様に、ゆったりのんびり幸せそうに見えました。そして、チェンマイについての印象を一言で表すなら「クリエイターが住みたくなる街」なのかなと思いました。