こんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。

本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「Episode #42: Tahoma Fuji Sake with Andrew Neyens」の解説をお届けします。

今回のエピソードは、ホストのJustin Pottsさんがアメリカのシアトルを訪れた際、Andrew Neyensさん(以下、Andrewさん)がシアトルで運営する酒造Tahoma Fuji Sakeを訪れ、Andrewsさんへインタビューしたものです。

プロデューサーは弊社のFrank Walterです。

【今回のエピソードのキーワード】

  • buck:USD(アメリカドル)を意味するスラング。200 bucks = 200 US dollars。
  • repurpose:転用、再利用。
  • gauge:計る、測定する、標準規格、測定器などの意味。
  • scale:調整するなどの意味があるが、このエピソード内では、「拡大する」のような意味で使われている。
  • level off:一定を保つの意味。

 

【酒造ツアー】02:45~

Andrewさんの酒造では高価な道具や設備は使用しておらず、その多くは自身で作ったものです。
例えば、米を炊くために使っている釜は元々、近くのアメフトのスタジアムでキャラメルポップコーンを作るために使用されていたものでした。これをAndrewさんが中古で200ドルで購入し、釜として再利用しているというわけです。

過去のエピソードでも何度か言及していますが、日本酒造りに使用される道具や設備は高価なものが多いそうです。さらに、海外の酒造にそれらを導入する場合、大きいものは輸入も大変ですし、何より費用もかさみます。しかし、Andrewさんは、手に入るものでこれらを賄い、必要に応じて自身で改良を加えて使用しています(たくましい・・・)。

Andrewさんの酒造で使用しているタンクも、元々は以前近くにあった別の酒造から譲り受けたものです。複数あるうちのタンクの一つはカバーが掛けられていますが、これは冷却を効率的に行うための工夫だそうです。他にも、あまり使いませんが、ヒーターや加湿器なども備えています。
麹室は小さいですが、Tahoma Fuji Sakeの規模からしてそこまで大きな麹室は必要無く、むしろちょうど良いサイズだとAndrewさんは語っています。

Andrewさんは過去の酒造り、ビール造りで得た経験と知識を活かして、この酒造の設立当初から設備の増設を行ってきました。

しかしこの外国の地での酒造りは、日本でやるそれとは話しが違います。そこで、Andrewさんが行ったことは、酒造りのプロセスを細かく分析して、自分が与えられた環境で実現できる酒造りの設備を整えることでした。

さまざまな制約がある中で設備を整えるのは大変な作業でしたが、工夫してそのような困難を乗り越えていく過程は楽しいものだったとAndrewさんは振り返っています。

 

【自身の酒造を立ち上げるまでの道程】16:40~

Tahoma Fuji Sakeを案内するAndrewさんTahoma Fuji Sakeを案内するAndrewさん(Sake On Airウェブサイトより)

Andrewさんは2014年に自身のビジネスを立ち上げ、2014年から2015にかけて酒造を造営しました。
海外で酒造りを行うにあたって多くの人々が直面する困難として、酒造りに必要なライセンスの取得があります。しかし、Andrewさんは酒造の造営前にこのライセンス取得を済ませていました。Andrewさんがしっかりと準備と下調べを行ったうえで酒造を立ち上げたことがよくわかりますね。

今回のインタビューを収録した時点では、この酒造での酒造りが始まってから1年半が経過したところでした。当初は年間を通して酒造りを行う計画でしたが、夏は酒造りを行わずに家族と時間を過ごしつつ、販売に注力し、秋冬は酒造りにフォーカスするという方針に切り替えました。

Andrewさんの酒造で使用している酵母は協会901号で、日本から輸入しています。他に使用している酵母はアメリカ産とカナダ産のものです。一度、北陸酵母(?)というものを繁殖させようと試みたことがありますが、この酵母は使用しにくく、断念した経緯があります。

液体状の酵母は、量を正確に測るのが難しい、品質が悪化しやすいという理由から、乾燥酵母(ドライイースト)の方を好んで使っているとのことです。

バスケットボールのコーチや、船乗りの仕事などに従事してきたAndrewさんにとって、酒造りにおいて材料をどのように扱えばいいのか考えることは、大きなチャレンジでした。

初めて現在の奥さんと一緒に日本に行った時も、英語教師として富山県で暮らしており、化学や酒造りとは無縁の人生を送っていました。しかしその後、結婚してビザが切り替わったことで選べる仕事の幅が拡がり、富山県の富美菊酒造で働くことになりました。当時、富美菊酒造は酒造を切り盛りしていた、現在の杜氏のお兄さんが他界されたばかりでした。富美菊酒造のほかにも、Andrewさんはシアトルに戻る前に桝田酒造店でも酒造りの経験を積みました。

そしてシアトルに戻って遂に自身の酒造を開きます。創立以来、大規模な投資や幅広く手を広げるようなビジネスは行わず、自分でハンドリングできる範囲での醸造と販売のみに集中するという方針に基づいてこれまでやってきました。
その後、奥さんと日本に里帰りした際には、桝田酒造店で再び1ヶ月働き、更なる知識を得たり、杜氏との関係を深める機会もありました。

 

【今後の酒造の方向性】42:02~

今後の酒造りで重視していきたい点は、ビジネスの拡大よりも、効率性、品質、一貫性だとAndrewさんは語っています。
地元のシアトルのみに市場をフォーカスして、今のビジネスのサイズを維持していくことが自身の人生やメンタルヘルスに合っていると信じています。

Tahoma Fuji Sakeは特に広告や宣伝なども打っていません。自分の酒を売りたい場所に赴いて、話をしてみて、もし興味があれば話を進めるというスタイルで今まで売り込んできました。
Andrewさんは自分はセールスマンではなく、あくまで自分の商品や酒造の代表者に過ぎないと言います。
現在はいくつかの取引先を抱えていますが、Andrewさんが取引先を決める際に重視するポイントは、関わる人すべてが何かしらの利益を享受できるような関係を築けることだそうです。

シアトルは、Sakeに対する理解がある地域だとAndrewさんは感じています。
ビールのような大きなブームがSakeにも起こることは考えにくいですが、サイダーのように市場のシェアが拡大し、世の中の関心が高まるような現象がSakeにも起こるのではないかと考えています。
(アメリカ人はビール、ワイン、リキュールが大好きだから、というのがその理由だそうです)
またAndrewさんは同時に、チューハイの方がSakeよりもニッチ市場を抑えて人気が出るかもしれない、とも付け加えています。

 

【編集後記

これまでのSOAでは主に、酒造りの規模拡大や新たなSakeの開発などに情熱を捧げる人々にお話を伺ってきました。しかし今回のエピソードでは、対照的に、ご自身のペースで、小規模・低コストながらも高品質な酒造りにこだわるAndrewさんのお話を紹介しました。
いくら他に競合するSakeが少ないからと言っても、ビールやワインをはじめとした他のアルコール飲料と同じ市場で渡り合って行けるのは、地元の関心や理解に加え、Andrewさんが小規模ながらも高品質な酒造りを地道に続けているからなのかなと感じます。

また、設備投資はなるべく抑えて、現地で手に入るものを工夫して酒造りに使用するというポリシーが印象的でした。
このお話を聞いて、自分が大学生の頃にお世話になった教授から聞いた、数十年前のカナダ留学中に、現地で手に入る材料でぬか漬け用のぬか床やラーメンを麺から作ったりしていたというお話を思い出しました。
人間、情熱次第で、ある程度の困難は乗り越えられるものなんだなと改めて思いますね。

 

【SOAについて】

SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。