こんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。

本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「#36: Building Breweries Down Under with Zenkuro & Melbourne Sake (Part 2)」の解説をお届けします。

今回のエピソードはゲストにニュージーランド(以下、NZ)で初めてにして唯一の酒造であるZenkuroを立ち上げたDavid Jolld Jollさん(以下、Daveさん)、そしてオーストラリアで初の酒造であるMelbourne Sakeを立ち上げたMatt Kingsley-Shawさん(以下、Mattさん)を迎え、2回の放送に分けてお送りします。今回は後半部分、第2回目の放送です。

ホストは前回に引き続き、Justin PottsさんChris HughesさんMarie NagataさんSebastien Lemoineさん、プロデューサーは弊社のFrank Walterです。

【今回のエピソードのキーワード】

  • prohibitive:法外な。日本語の「法外な値段」と同様、prohibitive priceとセットで使用されることが多い。
  • protectionism:保護主義。
  • takeaway:飲食店などで使用されるテイクアウェイの意味のほかに、学びという意味がある。key takeaway from ~(~からの主な学び)などのように使用されることが多い。

 

【海外で酒造をはじめるにあたって】02:00~

前回のエピソードで、MattさんがパートナーのQuentinさんと酒造を立ち上げる前に海外の酒造を視察したことが語られました。この海外視察を通して、彼らは小さな規模の酒造でも海外でやっていけることを確信し、Melbourne Sakeを立ち上げました。

しかし立ち上げ当初から現在に至るまで苦労しているのが、ライセンスの問題です。
Melbourne Sakeは既に酒の製造と販売のために必要なライセンスを取得済みです。しかし、小売店で酒を販売する場合には別のライセンスが必要になります。

また、今までオーストラリアで日本酒が製造された例が無かったため、もちろん日本酒製造業のライセンスも現地の法律上存在しません。そのため、現在Melbourne Sakeが取得しているライセンスは「ワインカテゴリー」に属するものだそうです。

しかし、そもそもワインはぶどうを原料とするのに対して、日本酒は米を原料として用います。このような現地の法律とのギャップが、ライセンス取得の過程を複雑なものにしている原因だそうです。

Melbourne Sakeは現在は他の業者の建物を一時的に間借りして運営していますが、この建物は現在改修工事が行われており、イベントスペースへと生まれ変わる予定です。この中によりしっかりとした酒造りのための機能を持ったスペースを設け、今後の拠点としていくことがMelbourne Sakeの今後の計画だと言います(そしてMattさんもQuentinさんも酒造業に本腰を入れるため、別でやっていたレストランの仕事を先日辞めたとか)。

気候の変化の大きいメルボルンの地で安定した酒造りを実現させるため、Melbourne Sakeでは温度コントロールとタンクを使用して、その気候による影響を抑えることに取り組んでいる最中です。一方、Zenkuro SakeがあるNZのクイーンズタウンでは、その乾燥した涼しい気候により、一年中酒造りが可能です。しかしそれでもなお、Daveさんは自身の酒造に冷蔵システム設置のための投資を行い、室温を6℃に保つ努力をしています。

 

【Daveさんの海外視察~Zenkuro Sake立ち上げまで】15:40~

Daveさんは日本酒造りを学ぶためにNZから日本に戻ってきていたものの、当時は日本酒造りに関する知識はほとんど持っていませんでした。

そこで茨城県の吉久保酒造に行き、日本酒造りを学ぶことになりました。ここでの経験は、Daveさんにとって文化、チームワーク、クラフトマンシップ(職人の技)を理解する良い機会になりました。

その後、友人がカナダで運営する酒造、YK3へも視察に訪れました。この酒造を視察したことで、海外で小規模の酒造でもやっていくことは可能だという確信がDaveさんにも生まれます。

NZに戻ったDaveさんは、なるべくシンプルな設備で自らの酒造を設立しました。日本の酒造で使われている設備はとても高価なものが多く、小規模の酒造にとっては購入できないものもあります。こういった機材の市場は競争が激しくないため、おしなべて高価なものがほとんどであるのが現状だそうです。

ちなみに、このパートで「ヤブタ」や「槽(ふね)」などという言葉が出てきていますが、これらは日本酒造りにおける「搾り」と呼ばれる工程で用いられる代表的な2つの手法です。搾りとは、醪と呼ばれる水分を多く含んだ米から酒(水分)を抽出する作業のことです。水分を失った米は酒粕と呼ばれます。ヤブタ式は自動圧搾ろ過機で醪から酒を搾るのに対して、槽搾りでは槽という木製の容器の中に醪が入った袋を積み重ね、上から圧力をかけることで酒を搾ります。槽搾りは伝統的な手法ですが、ヤブタ式よりも大きな手間がかかるため、現在採用している酒造は少ないそうです。

 

【酵母・麹の日本国外への輸出】28:03~

ここ4~5年間で、酵母を日本から輸入することは以前ほど難しいことではなくなりました。この変化の背景にはさまざまな要素が絡んでいると考えられますが、生き残り戦略の一つとして、日本国内の酒造が酵母を販売し始めたことが大きな要因の一つであると考えられます。

また、海外の酒造が国内の酒造にとっての競争相手になるとは考えにくいことも、国内の酒造が海外の酒造に自らの酵母を販売し始めた理由の一つであると考えられます。

海外から酵母を購入する際は、日本醸造協会のウェブサイトから英語版の注文フォームから注文を行います。注文すると、最もポピュラーな2種類の酵母を届けてもらえるとのことです。

酵母のほかに、Zenkuro SakeとMelbourne Sakeはフリーズドライタイプの麹を日本から輸入しています。麹は、酒造りにおいて最も重要であると考えられることが多い要素です。

しかし、酒造りを始めたばかりの人々にとっては他にも準備しなければならないものが多くあります。このように初期段階ではフリーズドライの麹を取り寄せて酒造りを行い、後にオリジナルの麹の生産に着手するというケースもよくあることだそうです。

 

【日本の酒造を見学して気づいたこと】35:16~

Mattさんは今回、日本の酒造を見学して回るために来日をしています。離日までにまだ数週間残っています。ここまで酒造を見学してきた中で気づいたことが、醸造プロセスにおける蒸米と呼ばれる作業のクオリティだそうです。

Mattさんは、海外の酒造と比較して日本国内の酒造は、この蒸米の作業をより高いレベルで一貫性を保って行っていると感じたと言います。この蒸米作業の後に麹菌を米に振りかけていくという重要なプロセスが控えており、それは最も重要な作業であるとよく考えられています。しかし、この蒸米がうまくできていないと、いくら麹菌を加える作業がうまくいっても美味しい酒はできないそうです。

 

【海外での酒造りを考えている人々へのメッセージ、今後の目標】43:45~

Mattさん:ご想像の通り、海外での酒造りは簡単なものではありません。すぐに収益化することはできず、それでも日々ハードワークが要求されるので、それを乗り越える覚悟が必要です。

Melbourne Sakeの当面の目標は、自社の醸造所を設けることと自信を持って商品化できる酒を世の中に送り出すことです。

Daveさん:酒造の設立に費やしたこの5年間の経験は本当に素晴らしいものでした。世界中で多くの人と出会い、繋がることができ、とても良い経験になりました。今後の目標は、NZの人々の間にSakeを広めていくことです。

 

【編集後記

今回のエピソードでは、日本酒製造にあたっての現地のライセンス取得に関わる難しさの話が出てきました。世界的に広く普及しているワインや蒸留酒などであれば、このプロセスももっとスムーズにできるのかもしれません。

しかし、「そもそも日本酒とは何ぞや」という説明から始めなければいけない海外での日本酒製造のライセンス取得は、考えただけで気が遠くなるチャレンジです。

このような大きな困難を乗り越えた海外産の日本酒が、今後の日本酒産業にどのような影響を与えていくのか、注目していくと面白いかもしれません。

 

【SOAについて】

SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。