こんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。

本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「#33: Tengu Sake with Oliver Hilton-Johnson」の解説をお届けします。

今回のエピソードはゲストにイギリスで酒ビジネスを展開するTengu Sakeを運営しているOliver Hilton Johnsonさんを迎えてお送りします。

ホストはJustin PottsさんChris HughesさんMarie Nagataさん、プロデューサーは弊社のFrank Walterです。

【今回のエピソードのキーワード】

  • Gap year: 学校や会社などに通わず、あえて空白の1年を設けること。欧米ではGap yearを取る若者が多く、この期間を利用して旅行などの好きなことをして見聞を広めることが多い。
  • Ethos: 古代ギリシャ語を起源とする言葉で、(ある文化の根本的)特質,精神、(社会・集団の)気風、(一民族・一時代の)風潮,主潮、(個人の)性格,気質を意味する言葉。
  • Booze: アルコール飲料を指すスラング。イギリス英語ではアルコール飲料一般を指すために頻繁に使われる言葉だが、アメリカ英語では低品質の「酔うために飲むお酒」を連想させる。そのため、Oliverさんが自社を”booze company”と呼んでいるが、これはとてもイギリス的な表現だと言える。
  • Unpasteurised: 低温殺菌されていないの意味。unpasteurised sakeはいわゆる生酒を指す。アメリカ英語のスペルはunpasteurized。
  • Strain: 種族、血統、家系などの意味。Rice strainsは米の品種の意味。

 

【Oliverさんについて】04:46~

Oliverさんはギャップイヤーを利用して初めて日本にやってきました。その時は1999年から2000年まで北海道に滞在しました。しかし、当時は酒はあまり好きではなかったそう。

イギリスに帰国後、お父さんの友人で酒好きな方がいたそうで、その方と一緒に酒を飲む機会がありました。その時に飲んだ酒をとても気に入り、これがOliverさんが酒の世界に進むきっかけになりました。

ちなみに、この時飲んだ酒はロンドンで購入されたものだったそうです。今でこそロンドンは日本の食材が手に入りやすい街になりましたが、約20年前に良質な酒を入手するのは今ほど簡単ではなかっただろうなと思います。その後、彼はイギリスで酒の輸入卸の会社を立ち上げます。会社設立にあたり、彼には次のような強い思いがありました(11:55~):

”I really wanted to commit to quality, and I really wanted to ensure that everything I was selling would be as the brewer intended it to taste”

「品質にとてもこだわりたかった。そして、私が売る商品はすべて、その蔵元たちが願うような味わい方で味わってほしかった」

 

【顧客にとってのリスクを減らすためには】15:16~

日本から遠く離れたイギリスの地で酒のBtoBビジネスを展開するににあたり、Oliverさんは次の3つを基本方針として掲げました。

1.在庫は切らさない
同業他社は他の商品とまとめて日本酒を輸入しているパターンが多く、この場合はイギリスに届くまでに時間がかかる。一方、Tengu Sakeは独自の輸入ルートを確保し、常に顧客の注文に対応できる在庫を揃えている。

2.適正価格での販売
同業他社は為替レートに応じて価格設定を行っているため、設定価格は日々変動する。一方、Tengu Sakeは基本的に価格を一定としており、過去7年間で値上げをしたことは2回のみ(!)。

3.各ブランドの差別化
Tengu Sakeは少数の酒造としか取引を行っておらず、新たに取引を始める酒造には必ず、
What makes your sake different?”(21:10) 「あなたの酒を差別化するものは何ですか?」
と質問をしています。多くの酒造からは「米と水です」と返ってきますが、この答えではバイヤーに売るためには不十分だとOliverさんは言います。

各酒のブランドをしっかりと構築し、そのストーリーや考え方について伝えることが必要だと考えているからです。

 

【ウェブサイト独自のアイコンシステム導入】23:14~

Oliverさんは既に酒に関する知識を身につけてはいたものの、酒のボトルに表示されている酒関連の用語を見ても、それらが一体どのような味がするのかイメージが湧きづらいことに気が付きました。例えば、「Junmai」と書かれていても、それがどのような味がするのかイメージできる人は日本人でも少ないでしょう。外国人ならなおさらです。

そこで、tengusake.comの販売ページでは、各酒の特徴がより簡単に理解できるように独自のアイコンシステムを導入しました

これらのアイコンにマウスを合わせると、「rich(=濃醇)」、「light(=淡麗)」、「fragrant(=香り豊か)」などの酒の特徴を表す一語が表示されます。このシステムにより、酒の予備知識が少ない人でも、各酒の特徴を一目でつかめるようになりました。

 

【Tengu Sakeの社名の由来】27:50~

Tengu Sakeという独特の社名ですが、この社名に決まった理由は複数あるそうです。

まず一つ目は、2つの音節(two-syllable)から成る言葉を使うこと。これは、外国人にとって、聞きなじみの無い長い日本語を覚えるのは簡単ではないためです。

このルールに則って候補に挙がったのは、「天狗」のほかには「浪人」や「忍者」など。ちなみにちょっと興味深かったのが、”ronin”の響きはアイルランド語っぽいというフィードバックがあったということです。

Oliverさんは神話や民話などをリサーチし、酒に関わる会社には「天狗」が一番良いのではと思うに至りました。

ちょうどこの頃、スキーをしにフランスを訪れ、現地ですき焼きレストランに入ったそうです。このレストランには壁に天狗の仮面が飾ってあり、店主がOliverさんが帰る際にこの仮面をプレゼントしてくれました。この出来事を、Oliverさんは「社名は”Tengu Sake”にすべき」というサインだと受け取り、社名を”Tengu Sake”に正式決定しました。

 

【直観的なアイコンシステム】30:41~

先に触れたサイト上のアイコンシステムは、現在11種類存在します。Oliverさんはこの数はもう増やしたくないと言います。なぜなら、これ以上増やしてしまうとかえって複雑になってしまうからです。

このアイコンシステムは外国人だけではなく、酒に詳しくない日本人の若者にとっても直観的に各酒の特徴を把握するのに役立つはずだとホストのMarieさんはコメントしています。日本の文化を理解するために外国で作られたシステムが、日本人が自国の文化を学ぶために役立つということも今後起こるかもしれません。

 

【独自の英語版ネーミング】34:30~

tengusake.comの販売ページを見ると、元々の日本名のほかに、各酒に英語名がついているのがわかります。
これらの英語名はOliverさんが命名しています。どのように決められるのでしょうか?

例えば、岡山の辻本店によるGOZENSHU 9 NINE(珍しく元々アルファベット表記の名前の酒ですが)は、”ROCKY MOUNTAIN(岩山)”という、オリジナル名とはかけ離れた英語名が付けられています。このネーミングは、その酒に使用される原料に由来します。

菩提酛(ぼだいもと)
まずは菩提酛(ぼだいもと)という、日本酒製造で使用される酛の一種。酛とは、日本酒製造で強い酵母を作るために使用される要素で、菩提酛は生米を使用して作られるという特徴があります。

雄町米(おまちまい)
次に、雄町米。雄町米は100年以上前に発見され、日本中でただ一種残された混血のない米とされています。有名な「山田錦」も、この雄町米を交配して作られたお米です。

これら2つの原料が「田舎と大地を連想させる(rustic and earthy)」ことから、山をテーマにした名前を付けることにしました。ちなみにこのROCKY MOUNTAINに対して、低温殺菌されていない同じGOZENSHU 9 NINEの生酒は”MOUNTAIN STREAM(渓流)“と名付けられています。

このように、英語名をつけることによって各酒にキャラクターが生まれ、消費者に覚えてもらいやすくなりました。

 

【ロンドンの酒マーケット】46:10~

ロンドンでは酒の市場はまだまだ発展途上ですが、徐々に酒への関心は高まっています。

Oliverさんはロンドンの市場は特に魅力的だと語っています。なぜなら、イギリスは人口が少ないにもかかわらず、世界で13番目に大きな市場であり、酒に関しても高い価値が認められている傾向があるからです。そのため、ボトル1本あたりの価値も高く、アメリカで販売するよりも高値で取引されています。

 

【特定名称酒】53:33~

「特定名称酒」という言葉をご存知でしょうか。日本酒は特別名称酒と普通酒に大別されます。特別名称酒は、醸造アルコールを使用しないで製造した純米酒であること、および原料の米の精米歩合によるある規準を満たした日本酒を指します。特別名称酒は、その中でもさらに純米酒、吟醸酒、特別本醸造酒などと分類されます。近年、酒造を中心に「純米や吟醸などの分類用語にばかり注目が集まり、米や酵母の種類といった日本酒の味を定義する大事な要素が軽視されているのではないか」という考えが広がってきました。Oliverさんはこの動きをポジティブにとらえています。

同様に、市場の中で高い地位を占めている山田錦のみに限らず、近年他の品種の米(rice strains)を使った酒で高い評価を得ようという取り組みが出てきていることについても、酒業界全体のレベルを押し上げる力になるという見解を示しています。

 

【編集後記】

今回のエピソードで最も興味深いと思った点は、日本の文化が外国人によって外国で外国人向けに再解釈されて、日本から遥か遠い国で広められているという点です。

日本の文化に対する予備知識が我々日本人よりも少ない外国人だからこそ、彼らに対してはよりわかりやすくその特徴を説明する必要があります。そうして工夫を重ねる中で、酒の特徴がわかりやすいアイコンが生まれたり、英語名のネーミングに関わるブランドイメージを再考する機会が生まれます。

灯台下暗しという言葉がありますが、あえて自国の文化を第三者の視点から学んでみると、今回のような面白い発見があるかもしれません。

SOAは、今後も外国人ホストを中心にSakeに関する情報を発信してまいりますので、今後も御拝聴のほど、よろしくお願いいたします。

 

【SOAについて】

SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。