『インタープリテーション全体計画』制作のための地域ワーキング実施レポート
「九州ボルケーノツーリズム・インタープリテーション(IP)全体計画」活用アイデア会議 ~ 地域資源を”伝わる魅力”に変えるセミナー&連続ワーキング ~ の開催レポートです。
Y. Uto
2025年11月18日

2026年、日本のインバウンド市場はかつてない新局面を迎えています。訪日客数が4,000万人を突破し、いわゆる「ゴールデンルート」を卒業したリピーター層が増加。彼らが熱烈に追い求めているのは、ガイドブックの1ページ目には載っていない「日本の深部」にある本物の体験ではないでしょうか。
しかし、そこで大きな課題となるのが「情報の質」です。AIによって生成されたどこか無機質な観光ガイドが溢れかえる今、旅慣れた旅行者が求めているのは、機械的な推奨ではなく、地域の文脈(コンテキスト)を深く理解した「人間の言葉」によるストーリーです。
今、私たちが問われているのは、単なる情報の翻訳ではありません。地域の「当たり前」を、世界を惹きつける「価値」へと書き換える「ネイティブ視点の編集力」かもしれません。
昨年、奈良県明日香村が、国連世界観光機関(UN Tourism)によって「ベスト・ツーリズム・ビレッジ(以下、BTV)」に認定されました。
BTVとは、一言で言えば「持続可能な観光の最高峰」を指す認証制度です。いわゆる観光地の人気投票ではありません。(国内では12の地域が本日現在認定を受けています。)
日本国内では京都府南丹市の美山、岐阜県白川村や北海道美瑛町などが認定されています。明日香村の認定は、村民が不便を受け入れてでも守り抜いてきた「明日香法」と呼ばれる法律を選択した結果がようやく世界に認められたことを意味しています。
※明日香法とは、「明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」の通称を指します。明日香法については、こちらを参照ください。


昨年、私は農地や水路の現地視察で明日香村を訪れました。そこで改めて感じたのは、大阪市内からたった1時間程度で、明日香村に広がる田園風景と遺跡が混在する独自の里山の風景を楽しめる気軽さです。
明日香村には、高い建物もなく、工場もなく、清々しい空気を楽しむことができ、訪れた人に懐かしい思いを起こさせる不思議な魅力があります。
今も昔と変わらぬ風景を残す明日香村は、住民の方々が厳しい開発制限によって現代的な利便性を一部制限されてきたことによって残された風景です。しかし、そのおかげで今日まで残された「守られてきた日常」こそが、本物志向の訪日客にとって、非日常であり、日本の旅でしか感じられないリアルな場として映るのかもしれません。
一方で、「BTV認定はあくまでスタートライン」という思いが、現場の課題として浮かび上がっているのではないかと感じます。
最大の難問は、「守るべき静かな景観」と「地域を潤す観光消費」をどう両立させるか、という点ではないでしょうか。BTVという世界的なブランドを得て知名度を上げるためにプロモーションに予算をかけていけば、局所的に訪問客は増えるかもしれません。しかし、それは単なる「通過型の観光」で終わらせてしまう可能性があり、地域には疲弊だけが残り、大切な風景を守り続けることはできません。
単なる入場料モデルを超え、地域の物語(ストーリー)を体験価値としていかに適切に価格転嫁していくか。現場ではこれから、この「価値を対価に変える」ための、粘り強い試行錯誤を続けていく必要があります。


試行錯誤といえば、いくつかの村内のスポットには無料アプリ(バーチャル飛鳥京)を使って、往時の明日香村の様子をVRで見れるような工夫も施されています。観光スポットにおけるVRに関しては、メリット、デメリットがありますが、個人的にはリアルの代替えにはなり得ないですし、あくまでも物理的制限があるものを見てもらうための補完として扱い、そのVRを使ってうまくストーリーを組み立てるガイドが介在する必要があるのではないかなと感じます。
里山の風景を守っていくために、訪問客を単なる「消費主体」ではなく、風景の「維持主体(サポーター)」へと変えていく発想が求められます。単に美しいものを見て終わりにするのではなく、その維持がいかに困難で、いかに尊いか。ガイドを通じてその「物語」を共有することで、訪問客の中に「この場所を共に守りたい」という共感の種を蒔くこと。それこそが簡単ではないけれど、今後の進むべき持続可能な観光の姿ではないでしょうか。
例えば、明日香村の代名詞とも言える「棚田」や「稲架掛け(はさがけ)」の風景。これらを維持するには、農業が継続される仕組みが不可欠です。


今回の現場視察では、その厳しい現実も伺い知ることができました。当たり前のように広がる田園風景も、一度事業継承が途絶えて耕作放棄地となれば、あっという間に雑草に覆われてしまいます。こうした課題は観光面からのアプローチだけで解決できるものではありません。
農地を管理する農林水産省と、観光産業を担う国土交通省。管轄が異なる組織が「横の連携」をいかに強め、一体となって取り組めるか。こうした省庁や部門の垣根を越えた仕組みづくりこそが、今求められている課題解決の鍵ではないかと強く感じました。
明日香村のようなエリアにおいて、これからのデジタルプロモーションが担うべき役割は、単に「観光客を呼ぶ」ことではありません。その風景の裏側にある苦労や誇り、そして「なぜ守り続ける必要があるのか」という文脈を伝え、世界中に応援したくなる「ファン」を作ることです。単にフォロワー数を増やすのではなく、コアなファンを作ることがより大事かもしれません。
情報発信を通じて、地域外の人々を「心の支え手(サポーター)」に変えていく。この視点こそが、持続可能な観光を実現するための本質となるはずです。
里山の風景や伝統文化を持つ地域は、日本中に点在しています。しかし、その魅力を「世界が関心を持つ文脈」へと翻訳し、発信し続けるには、質の高いコンテンツを作り続ける「忍耐力」が必要です。
地域の「当たり前」を、世界の「憧れ」へと書き換える――。 もちろん、BTV認定は魔法の杖ではありません。明日香村が直面している「景観保全と観光消費の両立」や「目に見えない価値の言語化」という課題は、一朝一夕に解決できるものではないでしょう。
しかし、BTVというブランドに甘んじることなく、現場で泥臭く試行錯誤を繰り返す明日香村のこれからの歩みは、今後の訪日客、そして持続可能な地域観光を目指す自治体にとって、重要なケーススタディとなっていくはずです。
「九州ボルケーノツーリズム・インタープリテーション(IP)全体計画」活用アイデア会議 ~ 地域資源を”伝わる魅力”に変えるセミナー&連続ワーキング ~ の開催レポートです。
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