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視覚障害者のための移動支援ツール「ナビレンス」との比較から見るアクセシブルコードの特徴

アクセシブルコード
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Y. Uto

弊社のアクセシブルコードと同じく、視覚障害者向け支援ツールの一つであるNavi Lence(ナビレンス)をご存知でしょうか? スペインやアメリカでは公共交通機関等を中心に広く普及しており、日本でも注目されているスマホアプリの一つです。

このナビレンスを日本でも広めていくために羽田空港で実証実験が行われていたので、実際に体験してきました。今回は、そこから見えてきたアクセシブルコードとの共通点や違いをまとめてみました。


エレベーター入り口の横に付けられているナビレンスをスマートフォンで読み取る様子の画像

■ナビレンスとは?

ナビレンスとは、情報を埋め込んだタグ(QRコードに似た四角形のカラーコード)をスマートフォンで読みこむことで、目的地の内容・方向・距離などの案内が表示されるとともに音声で読み上げてくれる、スペイン発祥の移動支援アプリです。海外では施設内の移動支援だけでなく、バスや電車の乗り場案内や時刻案内などにも使われています。(過去の参考記事

ナビレンスの仕組みの図式

■ナビレンスのすごいところ

ナビレンスの仕組みで優れているのは、遠くからでも、どの角度からでも素早く読み取りができるという点。読み取り可能距離は12~18メートル、角度は160度、読み取り速度は0.03秒と言われています。また、GPSやインターネット環境も不要です。

専用アプリでナビレンスのタグを読み取るとコンテンツが表示され、自動で読み上げられます。視覚障害者は、その音声指示に従って移動し、次のタグをまた読み取ることができるのです。

羽田空港の実証実験で「ご案内窓口」に付けられたナビレンスをスマートフォンで読み取った時に表示される、ナビレンスアプリ画面の画像。

今回、羽田空港の実証実験の中で驚いたのは、トイレの入り口にあるタグです。そのタグは、入り口側から読み取ると、「お手洗いの入り口は前方です。・・(中略)突きあたりの右に女子トイレ、左に男子トイレがあります」と読み上げますが、同じタグをトイレ側から読み取ると、「出口は突きあたりを左に曲がってください。・・」と読み上げます。つまり、どの方向からタグを読み取るかによって読み上げる内容を変えられるのです。移動支援ツールとして、よく考えられているなと思いました。

トイレの入り口付近の壁に貼られたナビレンスタグの画像

■アクセシブルコードとの比較

ここからは、弊社のアクセシブルコードと4つの視点で比較をしてみます。

① 対象者 ② 主な用途  ③ ユーザー(視覚障害者)側からの視点 ④ 導入側からの視点

  • 対象者

ナビレンスは、視覚障害者向けに特化したサービスですが、アクセシブルコードは、視覚障害のある方だけでなく、日本語を読むことが難しい外国の方や、ディスレクシアの方などを含むユニバーサル対応が基本になっているという点で、大きな違いがあります。

  • 主な用途

ナビレンスは、「ナビゲーション=歩行支援」を目的としており、歩きながらタグを読み取ることで、方向や距離を知ることができ、目的地にたどり着けるようします。一方、アクセシブルコードは、「製品情報の取得」を目的としています。パッケージに付いているコードを読み取ることで、その製品の使用方法や注意点などの詳細情報を知ることができます。もちろん両者ともこのほかにも様々な使い方ができると思います。

薬のパッケージに付けられたアクセシブルコードをスマートフォンで読み取ると、音声で読み上げが始まるイメージ画像
  • 視覚障害者(ユーザー)側からの視点

まず「読み取り方法」について、大きな違いがあります。ナビレンスは専用アプリが必要ですが、アクセシブルコードでは不要です。ナビレンスは最初にカスタマイズした方が使いやすいですが、アクセシブルコードはスマホカメラだけあれば、誰でもすぐに使うことができます。

ナビレンスはかなり遠方からでもスマホを向けただけで自動検出されますが、アクセシブルコードは、コードの周りに点字または凹みが付いているので、触覚で、つまり触ってコードの位置を探し、スマホで読み取ることになります。

アクセシブルコードのデボス・エンボス加工の断面イメージ画像

次に、表示されるコンテンツにも大きな違いがあります。ナビレンスは、テキストのみのシンプルなものが基本ですが、一方でアクセシブルコードは、HTML(Webページを作成するための言語)でも作成可能で、比較的自由にデザインすることができます。

アクセシブルコードを読み取ると表示されるページのイメージ画像として、リンデロンVS軟膏の日本語版と英語版の例。

多言語対応については、両方とも数多くの言語に対応しています。ただ、ナビレンスは機械翻訳であるのに対し、アクセシブルコードは各言語のネイティブが翻訳しており、言語によって表記や音声読み上げの細かな調整も行うことで、伝えるべき内容を正確に多言語化・音声化することに力を入れていると言えます。

  • 導入側からの視点

まず、二次元コード(タグ)のデザインが異なります。ナビレンスはカラフルで目立ちますが、アクセシブルコードは一般的なQRコードです。それがメリットでもありますし、他のQRコードとの差異がわかりにくいという場合もあるかと思います。ちなみに、アクセシブルコードは、スマートフォンで読み取りやすくするために、QRコード画像内のセル数がより少ない短縮URLを使用しています。

次に二次元コード(タグ)を付けられる場所や素材にも違いがあります。ナビレンスは、壁に貼ったり、ビニールなどの様々な素材にプリントしたりできますが、アクセシブルコードは、触覚で認知できるようにするための加工が必要で、大きさの規定もあるため、「箱」や「カード」が最も適しています。

最後に、データの活用法です。アクセシブルコードは、消費者データの分析が可能という利点があり、導入される企業にとってはマーケティングに活用できるという大きなメリットがあります。

アクセシブルコードの消費者分析データのイメージ画像

■アクセシブルコードの特徴

あらためて、アクセシブルコードの特徴としては以下4点が挙げられます。

1)専用アプリや設定が不要で、誰でも簡単に使うことができる。

2)コンテンツに自由度があるため、多様な使い方が可能。

3)多言語化の際、人による正確な翻訳と音声調整を行うため、医薬品や食品など、正確な情報が求められるような製品にも使える。

4)消費者データの分析が可能で、マーケティングに活用できる。

■共通の課題

視覚障害者向けソリューションとしてのアクセシブルコードとナビレンス、それぞれの特徴が見えてきましたが、共通の課題もあります。

それは、当事者の方々の認知度です。やはり、どこに(何に)このコードが付いているのかというのを知っていただかないことには利用につながりません。

どんなに良いサービスでも、広く認知してもらわなければ、様々な場所への普及が足踏みしてしまいます。アクセシブルコードも、多くの方に慣れ親しんだ存在になるための訴求方法を、改めて考えていきたいと思います。

■まとめ

最後に、「ナビレンスとアクセシブルコードの共存イメージ」として、将来の理想のようなものを描いてみました。

たとえば、大きなショッピングモールで。視覚に障害がある方も、ナビレンスを使って自由に移動したり店を選んだりできて、店内では各商品に付けられたアクセシブルコードをスキャンし、音声で内容を確認して、何を買うかを決めることができる・・・そんな形が実現できれば、たとえ視覚障害があっても自分だけで自由にショッピングができるということになります。ナビレンスもアクセシブルコードもそれぞれの強みを活かして、うまくすみわけをしながら発展していくことで、視覚障害者の方たちのお役に立てればと思っています。