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外国人に分かりやすい多言語解説文とは 〜文章の構成②〜

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S. Sato

前回のブログ(外国人に分かりやすい多言語解説文とは〜文章の構成①〜)で、弊社のキャサリンより「文章の構成」についてご紹介しました。

その第2弾として、今回はエディターのブレンダンより、嵐山モンキーパークいわたやま様の英語解説文を例に、文章の構成についてご紹介します。


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京都市の解説文:
「嵐山モンキーパークいわたやま」の例

担当エディター / ブレンダン・クレイン

この解説文は、京都市西京区様のホームページに掲載されています。

下記の文章は、構成ごとに色分けしています:

(1)関心を引き起こす「リード文」/(2)一般情報(What・Where・When)

(3)2番目で紹介したテーマを掘り下げる /(4)情報のまとめ /(5)アクセス情報など

Arashiyama Monkey Park Iwatayama

 Arashiyama Monkey Park Iwatayama is home to a troop of 120 wild Japanese macaques that gather freely throughout the park, where they can be fed and closely observed from the park’s visitor center. The center is located at an elevation of 160 meters, on a mountainside dotted with cherry and Japanese maple trees that has a commanding view of the city of Kyoto. Kyoto University’s primatologists began studying the monkeys in 1954, and they helped to open the facility in 1957. It was at this time that the park staff began to assign names to every monkey in the troop. Researchers from the university still regularly visit to study the macaques.

 The park has no outer boundaries, so while the troop may congregate during feeding hours, the monkeys are free to spend the daylight hours lounging around the park, and they generally travel up the mountain to sleep in the forest at night. Thanks to the consistent feeding routine and the scarcity of natural predators, such as wolves and wild dogs, monkeys in the park have a life span of about 30 years— equivalent to about 100 years for a human. Other wild animals, such as deer, badgers, and masked palm civets, also inhabit the park.

 Visitors are encouraged to interact with the monkeys but to maintain a safe distance. It is against the rules to feed the monkeys directly, but visitors can purchase snacks, such as peanuts and apples, inside the visitors’ center and feed them to the monkeys through a wire fence.

(1)関心を引き起こす「リード文」

●下記、「リード文」に当てはまる英文の日本語訳

嵐山モンキーパークいわたやまは120匹のニホンザルが野生の状態で暮らしており、自由に公園内を行き交っている。パーク内のビジターセンターからは餌やりや、近くから観察することもできる。このモンキーパークは標高160メートルの桜や紅葉が点在する山腹にあり、京都の街を見渡すことができる。

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読者の関心を引き起こすため、私たちエディターはその施設の「魅力ポイント」を押さえ、冒頭でできるだけそのポイントを多く紹介するようにしています。嵐山の魅力的なポイントは、「猿たちの生息数」「猿たちが自由に暮らしている」「自然に囲まれている」「猿に近づいて餌を与えることができる」ことですので、それらを一番最初に紹介することにしました。

また、猿たちは檻の中ではなく、屋外で自由にのびのびと暮らしている姿が見られることを強調するため、「wild」と「freely」(「野生の状態」と「自由に」)という言葉で、その概念を繰り返して述べることにしました。

通常、解説文のリード文は一文に収めることが一般的です。しかし、この解説文ではすべての魅力ポイントを一文にまとめることが難しかったので、複数の文章に分けて紹介することにしました。

(2)一般情報(What・Where・When)

下記、「一般情報」に当てはまる英文の日本語訳:

京都大学の霊長類学者たちは1954年からサルの研究を始め、1957年には施設の開設に協力した。その頃からパーク職員は群れのすべての猿に名前を付けるようになった。今でも大学の研究者が定期的に訪れニホンザルを研究している。

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このような情報は「一般情報」ではないのでは、と思われるかもしれません。しかし、「What・Where・When」のうち、「What」と「Where」はすでにリード文で説明されていますので、次のセクションではモンキーパークの由来について紹介しました。

冒頭からここまで読んだ人が抱いた「どうやって猿を誘い寄せているのだろう?もともと観光施設だったの?」という疑問に対して、この施設は観光施設でありながらも研究所の側面も持っていることを説明しました。

そして、猿たちが自由を奪われ、利用されているのではないかと心配になった読者のために、研究者がそれぞれの猿に名前を付け、定期的にパークに訪れていることを解説し、読者に安心してもらえるよう配慮しています。

(3)2番目で紹介したテーマを掘り下げる

下記、「掘り下げ」に当てはまる英文の日本語訳:

このパークに柵はないため、群れは餌やりの時間帯に集まることがあるが、日中は自由に公園の周りでのんびりと過ごし、夜は山に登り森の中で寝るのが一般的である。定期的な餌やりと狼や野犬といった自然界における捕食動物が少ないおかげで、猿たちの寿命は約30年と長い。これは人間で例えると100歳程度と同等である。公園内では鹿、アナグマ、ハクビシンと言った他の野生動物も生息している。

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構成としては、ここで「2番目で紹介したテーマを掘り下げる」を入れるのが一番典型的です。しかし、この解説文では、リード文で紹介した魅力ポイントが一番に掘り下げるべき内容でした。そのため、「リード文 + 2番目で紹介したテーマ」を掘り下げることにしました。

この部分の主なポイントは、「猿たちの日常」と「生育環境の良さ」の2つを読者に伝えることです。猿たちの生育環境を心配する読者に安心してもらい、「じゃあ、パークに行ってみようか!」と訪問を促すためです。

(4)情報のまとめ

下記、「まとめ」に当てはまる英文の日本語訳:

ここを訪れる人は猿と触れ合うことができるが、安全な距離を保つことが求められる。猿に直接餌を与えるのはルール違反だが、ビジターセンター内でピーナッツやリンゴなどの餌を購入し、金網越しに与えることができる。

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ここまでの内容は、すべて「施設の魅力を伝える」や「観光客の関心を引き出す」ことを目標として書いています。しかし最後のセクションは「パークに行くことを前提」とした内容になります。リード文で紹介している「餌やり」と「猿の観察」を再びここで紹介し、より具体的に説明しています。

パークの風景を想像するだけではなく、読者自身が実際にパークで餌やり体験をしたり、楽しんでいるシーンが自然に思い浮かぶような、そんな解説文を目指しています。

(5)アクセス情報など

この解説文は、予めワード数が制限されていたので、アクセス情報を割愛する必要がありました。しかし、ただ単にカットするのではなく、他の情報と比べながら優先度を考えたうえで削除することにしました。

また、私自身、インターネットで「Arashiyama Monkey Park」と英語で検索したところ、アクセス情報はネットで十分に得られることが分かりました。そのため、今回の解説文でその点について案内する必要はないと判断しました。

このように、「何を書くか」だけではなく、限られたワード数に収めるために「何を省くか」についても配慮するのがエディターの仕事でもあります。


このように、外国人の読み手に最後まで解説文を読んでいただけるよう、また、どのような情報を入れたら地域の魅力を伝えられるか、「行ってみたい!」と思ってもらえるか、様々な工夫を凝らしながら作成しています。