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Sake On Air 最新エピソード解説「#41: Sake’s Missing Link with Pernod Ricard’s Yann Soenen」

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H. Oikawa

こんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。

本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「#41: Sake’s Missing Link with Pernod Ricard’s Yann Soenen」の解説をお届けします。

今回のエピソードは、ホストのJustin PottsさんSebastien LemoineさんPernod Ricard Japanでマーケティング・ディレクターを務めるYann Soenenさん(以下、Yannさん)をゲストに迎え、インタビュー形式でお送りします。

Pernod Ricard社は酒類の輸入・販売を行っている会社で、世界的に有名な銘柄の酒を多く抱えています。Pernod Ricard社は昨年末、そのトップ商品である「Chivas Legal」と富山県の桝田酒造店の銘酒である「満寿泉」とのコラボレーションによって誕生した純米大吟醸酒「LINK 8888」の販売を開始しました。

Yannさんには、これまで洋酒の販売を専門に行ってきた会社が日本酒業界に進出した経緯、LINK 8888の開発秘話、そして今後の展望などについて語っていただきます。

プロデューサーは弊社のFrank Walterです。

なお今回のエピソードは、緊急事態宣言発令が解除される以前に、SOA初のリモートで収録しました。そのため、過去のエピソードと比べて音声が少し聞き取りにくい部分があることをご了承ください。

【今回のエピソードのキーワード】

  • foray:進出。
  • bankruptcy:破産、倒産。
  • go far into ~:~の奥深くまで行く。Yannさんは49:59で「桝田酒造は”ウィスキーの影響を強く反映すること”を望んだ」と述べる際にこのフレーズを使っています。
  • versatile:ユーティリティ性の高い、さまざまな場面で使えるの意味。

 

【Yannさん、Pernod Ricardの紹介】03:31~

Yannさんは46歳のフランス人で、1996年からワイン&スピリッツ業界でキャリアを積み重ねてきました。初来日は1998年で、当時勤務していたフランスのスピリッツ輸入・販売会社であるレミーコアントロー社の「社内国際インターン制度」を利用して1年半の間滞在しました。この時に日本を気に入り、フランスに帰国後も何度も日本を訪れていましたが、ついに2015年に家族を連れて再来日し、日本で働くことになりました。

Yannさんが日本支社のMarketing Directorを務めるPernod Ricard社は、世界のワイン&スピリッツ業界をリードする会社の1つで、世界最大の酒の銘柄リストを有しています。その中には、「Chivas Regal」、「Ballentine’s」、「Jameson」、「Kahlúa」、「Malibu」、「Jacob’s Creek」などの有名なブランドがあります。

これらに加え、最近は小規模の醸造所やワイナリーの製品をラインナップに加え始めており、その中には日本酒も含まれています。

またつい数か月前には、ドライジン「季の美」で有名な京都蒸留所と資本提携を結びました。

SakeはPernod Ricard社の社員たちにとって未知の領域であるため、その業界への参入には多くの困難が伴います。そのため、Yannさんは自社の社員たちはSakeに関して学ぶ必要があると述べています。

 

【グローバル・プレゼンス】11:42~

Pernod Ricard社はいちフランス企業からグローバル企業へと拡大しました。焼酎と泡盛はその市場が国内のみにとどまるため、世界的なブランドを作り上げるのは容易ではありません。一方、Sakeは既に世界的に認知度が高いため、世界に対して売っていける可能性が高いと言えます。

ただし、Pernod Ricard社がSakeに手を出したのはこのような戦略的理由からではなく、単純に社員のSakeに対する強いモチベーションによるものでした。

この新たなチャレンジは、ウィスキーの樽で酒を熟成させる実験からスタートしました。

 

【ウィスキー樽を使用した酒の熟成】14:23~

この日本酒プロジェクトの初期、Pernod Ricard社ではワイン&スピリッツ業界で行われている熟成方法での熟成実験を検討していました。しかしJapan Craft Sake Companyを経営する中田英寿さんに相談したところ、桝田酒造に話を持って行ってみてはどうかというアドバイスを受けました。これが桝田酒造とのコラボレーションの始まりでした。

彼らは4つの樽を用意し、日本酒を入れて6ヶ月間熟成させました。熟成方法の実験の他にも、複数の異なるフレーバーを混ぜ合わせるという実験も行っています。

 

【LINK 8888】17:53~

Pernod Ricard社が発売した日本酒「LINK 8888」という名前には、スコッチのスコットランドと日本酒の日本、そしてそれらの文化を結ぶという意味が込められています。8888は、スコットランドと富山県の間の距離を示しています。8は(風水や古代の考え方では)ラッキーナンバーであり、その数字の形がこの2つのリンクのシンボルのようにも、無限を表すシンボルにも見えるということで、この名称がピッタリだということになりました。

初めて熟成された酒のうち、70%は山田穂、25%は山田錦、5%は玄米を使用したものでしたが、これらのほとんどは結局廃棄となってしまいました。

しかし2019年にはLINKは12,000本生産されました。この年は30個の樽を用意し、最初の年に造った酒の味を再現しようと試みましたが、前に造った酒よりもフルーティーさがかなり強くなってしまいました。このような試行錯誤を経て、現在は玄米の使用を止め、山田穂は新米を使用するという方法にたどり着きました。

こうして改良を加えられて発売された「LINK 8888」は日本のレストラン、ホテル、店舗でも扱われるようになりました。さらに、Amazonでは発売後すぐに売り切れになりました。

また興味深いことに、彼らの日本酒をウィスキーコーナーでChivas Regalなどと並べて販売する店舗もあり、この販売スタイルは売上に大きな影響をもたらしました。

 

【社内の反応】25:51~

これまで踏み込んだことのない領域であったSakeにビジネスを広げることに対しての社内の反応はどのようなものだったのでしょうか?Yannさん曰く、好調な売れ行きを記録した現在の社内ではとても好意的な反応がほとんどだそうです。

しかし、プロジェクト開始当初は若い世代の社員は肯定的だった一方、40代以上の年齢層の社員たちからは懐疑的な声が多かったのが実情でした。彼らの中には、未知の分野に手を広げて、結果的に会社の評判を傷つけることになるのではないかという危惧があったようです。

長いスパンで新たなビジネスを始める際、最も大きなチャレンジは市場を理解することとデータを集めることです。これらが無ければ、5年、10年先を見据えたしっかりとしたビジネスモデル・計画を立てることはできません。Pernod Ricard社のSakeプロジェクトも例に漏れず、この点において苦労したと言います。

Chivas Regal側はこのプロジェクトに強い興味を示し、Sakeの熟成に使われた樽(LINKに使用されたものではなかったですが)をウィスキーの熟成に使う実験を行ったりもしてみたそうです。その結果、この方法はウィスキーに甘みを加えることがわかったそうです。

 

【LINKの今後の展望とコロナウィルスの影響】32:15~

現在、LINKの展開は日本市場に注力しています。日本で成功を収めた際には、国外にも市場展開を検討したいという考えですが、その場合にはコロナウィルスの影響によって当初の予想よりも遅れが生じる可能性があると言います。

ビジネス的には3月から大きなダメージが発生し始め、4月には多くのバーやレストランが営業停止、イベントもキャンセルとなってしまいました。5月もこの状況が続くことが予想されますが(今回の収録は緊急事態宣言解除前)、どうかどの取引先もこの廃業の危機を持ちこたえて、無事に営業再開できるよう、Yannさんも祈っています。

同時に、ワクチンが完成するまでの間はこのウィルスと共存する道を探っていくしかなく、このウィルスによる影響が長期に渡ることを覚悟する必要があると述べています。

そして今後、会社が目指すゴールは、「“Creators of Conviviality”になること」だと言います。すなわち、「このパンデミックが終息した後、人と人を結びつけ、彼らが一緒にいられる時間を創り出す存在になりたい」という意味だそうです。

 

【マーケティング】39:20~

Pernod Ricard社はSakeは専門外であったため、セールス部門はSakeに関する知識が無く、当初どうSakeを売り出して行けばよいかわからなかったそうです。

一番最初におこなったことは、各都道府県で日本酒を販売するための免許を取得することでした。そのためには、各都道府県ごとに発注元となる卸売会社2社以上の協力が必要とされました。この条件をクリアするために営業活動に奔走する過程で、彼らの商品は多くの好意的なフィードバックを受け、多くの卸売会社に興味を持たれていることがわかりました。

過去のエピソードでも触れたように、グローバル市場では、日本酒が国によってどの酒類販売カテゴリーが適用されるかバイヤーが判断できず、ブランディングとマーケティングが難しいと言います。ワインも時々このようなケースに直面しますが、海外でワインより認知度が劣るSakeは、この点においてより困難が伴います。

 

【LINKとフードペアリング】48:25~

開発段階で、桝田酒造はウィスキーの影響を強く反映した革新的なSakeを望みました。一方、Pernod Ricard社側は日本酒が持つフレッシュさ(ウィスキーの特徴とは正反対の要素)を残したいという希望がありました。

結局、日本酒のフレッシュな味わいを残したまま、ウィスキーの力強さを加えるという結論に落ち着きました。こうして出来上がったLINKは、冷やして飲むと魚とマッチし、10~12℃で口が広いグラスで飲むとウィスキーの特徴が強く出て、肉とマッチするSakeになりました。

このことから、LINKはさまざまな場面で活躍することができる商品だと言えます。ただし、このフードペアリングの特性は狙って開発されたわけではなく、自分たちが好きだと思える商品を追求した結果、この商品に備わった特性だそうです。

 

【編集後記

スコッチウィスキー「Chivas Regal」と富山県の日本酒「満寿泉」のコラボレーションから生まれた「LINK」、一体どのような味がするのかとても気になります。また幅広い種類の洋酒を扱うPernod Ricard社がさらに今後、どんな商品を世に送り出してくれるのか、これもまたとても気になりますね。

そして、Yannさんの口から改めて語られたように、酒造業界にもコロナウィルスの影響が出ています。外出自粛に伴い「オンライン飲み会」が流行りました。しかし、自宅では用意できないような豊富な種類の酒と料理を取り揃えた居酒屋で、友人と話しながら楽しく飲んでいた時間はやはり恋しく感じます。

オンラインで飲み会ができる時代に感謝しつつも、以前のように当たり前に飲みに行ける日々が一日でも早く戻ってくるように願う毎日です。

 

【SOAについて】

SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。