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「〇〇ゆかりの地」へ観光客を誘致するために本当に必要なこと

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PartinB.

ライティングチームでエディターを務めているブリタニーです。
今回は日本に多くある「〇〇ゆかりの地」の観光PRについて、自分の考えを記事にまとめました。


ケーススタディ:小泉八雲ゆかりの地、松江市

自分の背景を少し説明させていただきますと、私は初めて日本に来た時、日本語で会話ができて、一般のアメリカ人より日本の歴史人物に興味を持っていました。そのため日本国内の旅では、好きな歴史人物ゆかりの地やお墓に、足を運ぶことがよくありました。一般の観光客というよりマニアックな観光客です。

しかし、私の歴史人物に対しての興味は、「たまたまどこかでその人物について知るようになって、たまたま関心を持つようになった」だけです。それは多くの場合、マスメディアによるものでしたが、時には先生や知り合いの関心の影響を受けることもありました。

2012年に、JETプログラムの国際交流員(CIR)として島根県松江市に派遣されました。行く前に松江について調べていたら、「Lafcadio Hearn」(小泉八雲)という名前がたびたび出てきました。大学では日本の文化や、19世紀後半と20世紀前半の欧米で流行っていた日本ブームについての研究が多かったのに、一度もこの名前に触れた覚えがありませんでした。パニック状態で1か月の間に小泉八雲の本を8冊読んだおかげで、小泉八雲の文章を鑑賞できました。そして、松江の風景と見比べ、ますますその文章力を尊敬しました。

小泉八雲の白黒イラスト

また、小泉八雲の松江への影響力に驚きました。小泉八雲記念館と国指定史跡である小泉八雲旧居は町の観光中心地にありますが、至る所にあるオブジェや、場所の名前や、史跡看板などに小泉八雲が出ています。そのような環境に住んでいたら、小泉八雲の認知度を過大評価するに違いないと思いました。

小泉八雲は昔、確かに英語圏の国では日本のエキスパートとして高く評価されましたが、現在は主に学会でしか知られていません。(それでも、必ず触れるわけではありません。私みたいに。)

松江の観光PR活動のアイディア交換の際、「小泉八雲が愛した町ということをアピールできるのではないか?」と言われて、率直に、海外では誰も小泉八雲が誰なのかわからないということを指摘したことが何度かあります。

しかし、指摘ばかりしていてはアイディア交換はできません。歴史人物という観光コンテンツがせっかくあるので活かす方法を考える方が効果的です。どれほどプライドを持っていても、歴史人物に対しての認知度ギャップを把握することは第一歩なのです。次に、地域のPRだけでなく、歴史人物のPRもしないといけません。それから、観光客の旅話に広がるように、現地で歴史人物のインパクトを与えることが何より大事だと思います。

観光PRの目的

メインの仕事は国際交流でしたが、CIRだった時に国際観光課に勤めていたので、外国人目線での観光PR活動が多かったです。マーケティングキャンペーンというより、それぞれのCIRは自分の個性やスキルを活かしながらブログやSNS投稿を行いました。

私のブログは、神話や歴史的なエピソードをディープに紹介していたから、主に日本好きの人や日本に旅行経験のある人に読まれ、大ヒットとまでは言いませんが、4年間の投稿を通して、「いつか松江に行きたい」、「次回行くときに松江に絶対行く」というコメントをしてくれた読者は結構いました。

一方、写真が上手なCIRのブログは写真メインだったのでより幅広い読者を得ていましたし、別のCIRは実際に来られた観光客へのイベント発信に集中していました。

あくまでも私たちの感覚とスキルに合わせて発信を行いましたが、時間をたくさんかけて、私は以下の観光PRの概念と目的を中心に活動を行いました。

観光PRは、地域を売ることです。主な目的は、観光客が地域に来ることを実現することです。(それからもちろん、地域にお金を使うこと。)

PRは宣伝・広告と同じなので、押しすぎるとブログの読者は財布を守る姿勢に入りがちです。あからさまなキャンペーンとは違って、松江の面白さを発信する個人ブログにとって、観光客の財布を開くことは難しい要求です。そのため、段階的な目的に集中することにしました:

①認識を広げること

②良さを伝えること

③キーワードを覚えていただくこと

同僚の写真ブログは情報が浅く、シェアしやすいものでしたので①と②の強みがあると思いました。それに加えて私は③に力を入れようとしました。観光客は日本への旅を検討する時、ぼんやりと「どこかのお城」や「どこかの湖」などのイメージしか持たず、お城を検索して、ゴールデンルートからアクセスしやすい城下町に行ってしまう可能性が高いという危機感を感じていました。

また、「松江」を最初から目的地として選んでもらうのが何より大事だと思い、日本旅行のリピーターや日本旅行を夢見る人をターゲットにして、しっかり松江ならではのコンテンツを覚えていただくように投稿しました。

そのために、「なんだか有名だった作家」ということだけでなく、「Lafcadio Hearn」という人物の印象も強く推そうとしました。私は、小泉八雲を出雲神話や松江城や玉造温泉と同じく、紹介しないと活用できないコンテンツとして扱いました。読者の頭に埋め込むために「Lafcadio Hearn」をブログの内容で繰り返して述べて、それから読者の連想記憶を働かすため、「怪談」などの関連するものがあった場合、共に紹介することを意識しました。

「怪談」は好奇心を招きやすい言葉だからそれを利用して歴史人物を紹介する点で役に立ちましたが、小泉八雲に関する事をメジャーからマイナーな観光スポットまでいろいろ書きましたので、松江の全体的な観光PRに活かすチャンスが多かったです。

観光客向きのニューズレターに投稿したコミックに小泉八雲と共に、わざわざ松江の観光スポットとイベントを紹介しました。
観光客向きのニューズレターに投稿したコミックに小泉八雲と共に、わざわざ松江の観光スポットとイベントを紹介しました。

このように「松江」と観光コンテンツのそれぞれのキーワードを覚えていただくことだけでなく、松江の観光ストーリーを、長期にわたる投稿を通して作って行くことを意識しました。宣伝や広告と同じものでしたが、そういう感じがしない、口コミのように書くことも大事にしました。そうやって、読者は「日本のどこかの町」というイメージより、「ブリタニーが好きな町」として松江を覚えてくれたと思います。

詳細より、人はストーリーに惹かれます。観光客(特に欧米人)は観光地の歴史の価値を知りたがるけれど、歴史的なイベントより、人の性格や人生により親しみを感じます。有名な人ではなくても個人のストーリーはインパクトを与えますから、地域のストーリーに深みをもたせるために、人物は不可欠だと思います。

というわけで、観光客を誘致するだけでなく、実際に来られた観光客へどのようなインパクトを与えて、どのようなストーリーを旅話に広げてほしいかを検討しないといけません。

観光を通して、歴史人物のインパクトを与えること

観光客と歴史人物は多くの場合、観光PRの資料の中ではなく、現場で出会います。「ああ、そうか」で終わってしまうケースがおそらく多いから、ストーリーを心に響かせ、旅話の種をまかないともったいないです。

例えば、小泉八雲みたいな作家だった場合、本人が書いた言葉を使う機会が多くあります。小泉八雲が働いた場所など街中至る所に史跡の和英看板がありますが、より印象的なのは、小泉八雲が旅して、エッセーに記録した場所に引用文を使うことです。優れた文章力を表す引用文を使えば、小泉八雲の熱狂的なファンが巡礼した際、満足度が上がると共に、初めましての観光客にも小泉八雲の才能をアピールできます。

ただし、作家の認知度を過大評価せずに、だれでも関心を持つように小泉八雲の基本的な紹介も必要です。

様々な看板で小泉八雲について触れたら、地域のストーリーに一体感を与えるのはいいことですが、短く、関心を感じやすいポイントに絞るのも大事です。例えば、宍道湖添いに有名な怪談の主人公、「耳なし芳一」の像があります。印象的な像ですが、和英引用文のみがありますので、この像はなぜここにあるか、観光客にとって謎だらけです。せっかく興味を引いたなら、小泉八雲の印象を与えるチャンスです!

「耳なし芳一」の像のイラスト

ここで小泉八雲の複雑な背景を説明するより、小泉八雲は「怪談」を執筆したことに集中すれば把握しやすいです。また、一般の観光客は「Lafcadio Hearn」に触れたことがない可能性が高いけれど、1965年の映画のおかげで、「Kwaidan」(怪談)とのなじみはよりあるでしょう。全くなじみのないものに対して関心を持つより、親しみのあるものに対してはより関心を持ちやすいから、タイトルに触れるのもいいでしょう。

「小泉八雲」は「なんか有名だった作家」の浅いレベルの意識を、「そうか、このようなストーリーを書いた人」に深めれば、小さな成功だと思います。城下町の日本らしい風景を楽しみに来られた観光客はもしかして、この小さな驚きで、「じゃあ、お城に近いから、この人の記念館でも行こうかな」という大事なきっかけにもなります。

まとめ

観光PRの目的は地域に観光客を誘致することですが、歴史人物はどれほど優れた人間だったとしても、そのような力はほとんどの場合足りません。

ファンにとって受け入れがたい事実ですが、その事実を飲み込めば、次のステップは認知度ギャップを乗り越えることです。歴史人物の特徴を活かして、どのように認識をおもしろく広げ、そして、適切な歴史背景を含めて、良さをどのように伝えるべきかはそれぞれの「〇〇ゆかりの地」の課題です。

しかし、マスコットキャラクターなどに変身されたりする必要はありません。人は自然に他の人の人生に対して関心を持ちますから、歴史人物のストーリーをうまく観光ストーリーに繋いでいけば、純粋な旅話の中に生き続けるでしょう。