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国境を越えるアニメと、変わりつつあるバランス――日中アニメ交流の今

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I.Riku

ここ数年、中日アニメの関係は静かに変化し続けています。

日本アニメは長いあいだ中国で圧倒的な人気を保ってきましたが、その存在感は現在も健在です。bilibiliやテンセント(Tencent)動画、愛奇芸(iQIYI)などの配信プラットフォームでは、『名探偵コナン』『SPY×FAMILY』といった作品が継続的に高い再生数を記録し、劇場版アニメでも『すずめの戸締まり』『THE FIRST SLAM DUNK』『鬼滅の刃』などが大きな話題を呼びました。

近年は、中国国内では「二次元経済」も急速に発展しています。上海市・南京東路に誕生したアニメ・コミック・ゲームの複合施設 「百聯ZX創趣場」 をはじめ、公式グッズショップ、コラボカフェ、ガチャポン専門店、舞台イベントなど、「推し活」を支える商業空間が次々とオープンしました。週末には多くの若者が集まり、アニメ文化が都市型消費ビジネスとして成立し、日中双方のIPが同じ棚で販売される光景も珍しくなくなりました。視聴だけでなくグッズ・体験・イベントに広がる市場の成長速度は、中国アニメ産業の勢いを象徴しています。

百聯ZX創趣場の外観
百联集团(百聯グループ)公式サイトより

一方で、中国発アニメ作品そのものも存在感を高めています。特に3Dアニメの躍進は目覚ましく、中国の古典神話をアレンジした2019年の『哪吒之魔童降世(ナタ 魔童降臨)』の興行収入は50.3億元(約1100億円)を記録し、中国映画史に残る大ヒットとなりました。さらに、2024年公開の続編『哪吒之魔童闹海(ナタ 魔童の大暴れ)』の興行収入は150億元(約3,027億円)以上という歴史的記録を更新していました。壮大なスケールと視覚効果の強い作品が一般層の支持を集める一方で、宮崎駿監督などの影響を受けた中国のコアなアニメファンやクリエイター層の間では、「手描き線による2Dアニメこそ理想の表現」という価値観が根強く残っています。つまり、3D作品が市場を牽引しながらも、2Dアニメは 「より純度の高い表現形式」として高く評価され、二つのジャンルが共存する状況 にあると言えます。

『ナタ 魔童の大暴れ』は12月26日より日本語吹き替え版が公開
『ナタ 魔童の大暴れ』日本公式サイトより

日本では、今も2Dアニメを中心に支持が集まる傾向が見られます。2020年公開の『鬼滅の刃 無限列車編』は、日本国内で407.5億円の興行収入を記録し、日本映画の歴代興収トップに輝きました。さらに、2025年に公開された最新作『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』も現在379億円前後の興収をあげ、依然として高い人気を維持しています。『無限城編』は同年、2025年11月に中国で正式に公開され、中国のファンにも広く受け入れられました。2025年12月現在、興行収入はすでに120億円を突破しました。

『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』中国版ポスター
写真:合同会社Rouse 李啓源

そのなかで、ここ数年は中国の2Dアニメが日本で少しずつ存在感を高めていることも見逃せません。たとえば原作が大人気のWeb小説である中華風時代劇アニメ『魔道祖師』は、日本で幅広い視聴層を獲得し、舞台化や常設テーマカフェなど多方面で展開された象徴的な例です。また、『時光代理人(LINK CLICK)』のように、ミステリー色が強いだけでなく、今時の若者の働き方や人間関係、SNS文化といった「現代中国社会の等身大の姿」を丁寧に描く作品が日本でも存在感を高めています。

『時光代理人』アニメ1期キービジュアル
©bilibili/BeDream

さらに、劇場アニメ『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』は2020年に日本語吹替版が公開され、観客動員32万人超・興行収入約5.2億円を超える興行収入を挙げたのは、海外アニメとしてはかなり異例だと言われていいます。口コミで評価が広がり、作画やアクション演出が日本のアニメ関係者からも高く評価されました。続編の『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』は2025年11月に日本語字幕版・吹替版が同時公開され、アクション表現の進化に加え、人物描写の深まりと感動的なストーリーが高く評価されています。大ヒットというよりは、「普通に観る選択肢として受け入れられた」点が、現在の日本における中国アニメの位置を象徴しています。

©Beijing HMCH Anime Co.,Ltd

また、日中企業レベルの協業も増えています。ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下の総合エンタテインメント企業アニプレックスと中国の大手配信プラットフォームbilibiliの共同製作プロジェクトでは、企画初期からの国際共同制作が本格化しており、その代表例が『TO BE HERO X』です。中国人クリエイター李豪凌(リ・ハオリン)が監督を務め、制作は中国のBeDream、キャストには宮野真守、花澤香菜、花江夏樹ら日本の声優を起用、音楽は澤野弘之を中心とする日本の作曲家チームが手掛け、国際制作体制ならではの密度と熱量のある作品となっています。単なる「輸出入」ではなく、「最初から共同で作る」の形が現実的な選択肢となりつつあります。

『TO BE HERO X』ティザービジュアル
©bilibili/BeDream, Aniplex

こうして見ていくと、日中アニメの関係はどちらか一方が支配する構図ではなくなりつつあります。中国では日本アニメの人気が続きながらも市場が多様化し、日本では中国アニメが自然に視聴される存在へと変わってきています。企業間の連携が進み、人材や技術が往来し、互いに影響し合いながら成長する関係が形になり始めています。

将来的には、さらに自然な形で互いの作品が受け入れられているかもしれません。国籍よりも中身が語られる状況が静かに整ってきているのを感じます。

参考リンク一覧

『羅小黒戦記」シリーズ日本公式サイト
https://luoxiaohei-movie.com/

シネマトゥデイ:「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来」興収5億円突破報道
https://www.cinematoday.jp/news/N0121479

世界No.1ヒット『ナタ 魔童の大暴れ』興行収入3,000億円の背景にある偶然と必然【日中アニメトレンドウォッチ👀🔍】#3
https://branc.jp/article/2025/04/08/1499.html

『魔道祖師」アニメ日本公式サイト
https://mdzs.jp/anime

『時光代理人』日本公式サイト
https://link-click.jp/

「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」興行収入404.3億円記録
https://eiga.com/news/20210524/25/

「鬼滅の刃 無限城編」中国でも大ヒット! 興行収入は120億円を突破
https://animeanime.jp/article/2025/12/02/94174.html

アニプレックス:bilibili×アニプレックス共同制作に関する公式発表
https://news.aniplex.co.jp/detail.html?id=62760

『TO BE HERO X」日本公式サイト
https://tbhx.net/

百聯グループ公式サイト:百联ZX创趣场跨次元亮相:探索趣缘社群的二次元异世界
https://www.bailiangroup.cn/html/2023/activity_0118/10467.html