
訪日外国人に伝わる、多言語解説文作成のポイント
ローカライゼーション弊社は観光庁「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」に、2018年より制作会社として参画しております。
この事業の目的は、外国人旅行者に地域の魅力がきちんと伝わる解説文を作成することにあります。その目的を達する方法として、観光庁指針には「ネイティブライター等の専門人材を地域に派遣してネイティブ目線を盛り込んだ解説文を作成」することが明記され、本事業は日本人向けの日本語解説文からの翻訳とは異なるという点が強調されています。
今回の記事では、本事業で意図する《魅力が伝わる》解説文のポイントや、実際の解説文作成の流れなどについて改めてご説明していきます。
伝わる・伝わらない、その違いとは
では、日本人向け解説文の翻訳ではなく、観光庁指針で示されている「ネイティブ目線を盛り込んだ解説文」だと何がどう変わるのでしょうか。
まず1つ目のポイントとなるのが、日本人と外国人旅行者がもっている日本文化・歴史等についての前提知識の違いを理解しているか、という点になります。
観光庁指針「HOW TO 多言語整備」には以下の改善点例が挙げられています。

出典:観光庁「HOW TO 多言語整備」
例えば「豊臣秀吉」など、日本人であれば誰もが知っていそうな歴史上の人物名も、外国人旅行者が知っているとは限りません。同様に、広さの比喩として東京ドームや行政区分で説明してもイメージがわかなかったり、年代についても日本の歴史を知らない場合には”Edo period”だけではいつ頃なのか理解して頂けません。
日本の文化歴史等について、あまり知識のない方にも読みやすく理解しやすい内容とするために、必要な情報を補ったり分かりやすい表現に置き換えたり、場合によっては難しすぎる説明を省いて簡略化したり、そのような配慮が必要となります。
2つ目のポイントは、外国人旅行者の興味・関心を把握しているか、という点です。

出典:観光庁「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」アンケート調査
文化財の解説文であれば、その文化財が持つ歴史的な意味やストーリーに最も関心が寄せられています。一方、既存の日本語看板では必ずしもその興味・関心に沿う内容になっているとは言い難いものがあります。
例えば、先日目にした平安時代の建物跡に関するある日本語解説文では、建物の大きや周りに池があったこと、中心的施設で儀式に使用されていた可能性があることなどの説明がありました。私たち日本人ですと、平安時代というキーワードと掛け合わせて、この解説文から当時の様子を何かしらイメージできるかもしれません。ですが、一般的な外国人旅行者にとっては容易ではないでしょう。
弊社メディアのユーザーアンケート(主に英語圏対象)でも、日本の文化・歴史への関心は高いという結果が出ています。ですが一方で、ポイント1つ目でお伝えしたように関心があるからといって必ずしも前提知識があるわけではありません。上記例の看板ですと、例えば建物がどのように使われていたのか、どのような儀式が行われていたのかなど、その時代の様子や当時の人々の暮らしを想像できるような内容とすることで、前提知識のない外国人旅行者にとってより満足度の高い解説文になると考えます。
解説文作成手順と押さえておきたいポイント
では次に、観光庁指針に基づいた解説文作成の手順と、押さえておきたい重要項目をお伝えします。

作成の大まかな流れは上に示した通りですが、魅力を適切に伝える解説文を作成するという観点で、01.事前準備・打ち合わせ、02.現地取材は大変重要な工程になります。
事前準備では、地域の皆さまに解説文を作成する対象物を選定頂くことが主な内容となりますが、その際に解説文を掲載する媒体の検討が非常に重要です。なぜなら、掲載する媒体によって、解説文として適切な文章量、必要な情報、伝え方が異なるためです。例えばウェブサイトと現地看板について、観光庁指針には以下の記載があります。

出典:観光庁「HOW TO 多言語整備」
主に情報収集段階の旅マエ閲覧となるウェブサイトに対し、現地看板は対象物が実際に見られる旅ナカで触れる情報となります。必要とする情報の内容も、量も異なります。
解説文作成前段階で想定媒体を決めておくことで、媒体に応じたより適切な文章に仕上げることが可能となります。
次の工程である現地取材は、ライター・エディターが解説文を作成する上での大事な情報収集の機会となります。現地取材以外にも、整備対象物に関する情報を予めご提供頂きますが、実際に現地を訪れることでしか得られない視点や気づきも多くあり、取材時にはライター・エディターから様々な質問が出てきます。そのため、整備対象物について詳しくご説明頂ける方にご同行頂き、情報提供にご協力頂くことが重要となります。

取材の様子
多言語解説整備に関する補助金
最後に、観光庁多言語解説整備事業やその他の多言語関連の補助金についてご案内致します。
観光庁同事業は、解説文作成に係る費用は全額国費で賄われています(2025年時点)。来年度の実施可否は現時点では未定ですが、例年1月末頃に翌年度の公募が行われますのでご検討の場合はその時期の公募情報にご留意頂ければと思います。
1つ注意点としましては、本事業で対象となるのはあくまでも解説文の作成のため、媒体化の費用は対象となりません。媒体化支援が可能な事業としては以下のものがあります。
①<文化庁>文化財多言語解説整備事業 ※現在募集中~ 6月16日(月) まで
文化財に対してデジタル技術等を活用した多言語解説媒体の整備支援事業を実施するもの。
補助金の額は、補助対象経費の1/3(33%)を限度となっていますが、の国指定等文化財が3つ以上であったり、観光庁が推薦する専門人材から監修を受ける場合などは補助率に加算が認められます。
②<環境省>国立公園等多言語解説等整備事業
国立公園等における案内板やビジターセンター等の展示物等について、外国人目線でわかりやすく魅力的な解説文を英語等の多言語にて整備するもの。補助率は、補助対象経費の3分の2以内。
今年度含め、ここ数年は例年4月半ば~5月半ばにかけて公募が行われています。
※①②共に、解説文は観光庁多言語事業の成果物を活用することが基本とされていますが、該当の解説文が無い場合には、①②それぞれの補助金を活用して解説文の作成を行うことも可能です。
③<観光庁>インバウンド受入環境整備高度化事業 ※現在募集中~ 5月30日(金) まで
訪日外国人旅行者の周遊の促進・消費の拡大を図るため、ICT等を活用した観光地の受入環境整備を支援するもの。補助率は、補助対象経費の2分の1以内。
対象事業は幅広いのですが、中でも「ストレスフリー・快適な旅行環境の整備」という項目で多言語案内の整備や、観光スポット等の掲示物等の多言語化整備といった項目があります。
今回、観光庁の多言語解説整備支援事業をベースにお伝え致しましたが、弊社では同事業以外にも、訪日メディアの記事制作、多言語SNSコンテンツ制作等、豊富なライティング実績を持つ多国籍スタッフが在籍しております。外国人旅行者向けのコンテンツ制作に関してご相談がございましたら、お気軽にご連絡くださいませ!