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「戦国時代」は英語でどう表記すべき?

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H. Oikawa

彦根城
彦根城

2018年に発表された「じゃらんリサーチセンター」の調査によると、「今後、訪日旅行で経験・実施してみたいこと」という質問に対して、アメリカ人は「お城」と答えた人が最多となりました。
また、数多くの外国人が日本のアニメや映画を通してサムライに興味を持っています。
2019年の観光庁の統計によると、「日本の歴史・伝統文化体験、日本の日常生活体験、日本のポップカルチャーの実施率は、東アジア4ヶ国に比べ、欧米豪が高い」ようです。
これらの結果から、戦国時代に関する英語解説文は非常にニーズが高いと言えます。
しかし、「戦国時代」は英語でどう表記すればいいのでしょうか?

弊社は2018年度より観光庁の多言語解説整備支援事業に参画し、2021年度までの4年間で姫路城、大阪城、彦根城など、戦国時代からの歴史を持つ複数のお城の英語解説文も作成してきました。
今回は、それらの解説文の編集業務を担当してきた弊社エディターのBrendanに、「戦国時代」の英語表記について聞きましたので、その内容をシェアします。

2018年から弊社が制作してきた解説文をすべて調べてみると、「戦国時代」が登場したものは48点ありました。
これらを分析してみると、「戦国時代」の英語表記は大まかに3パターンありました。

1. The Warring States period
2. The Sengoku period
3. そもそも時代名を明記しない

これら3つはどれも間違いではなく、それぞれ使い分けが必要になります。この記事では各表記の特徴を説明し、それぞれの最適な使い方を紹介します。

「The Warring States period」の使い方

戦国時代の英語表記には2つの書き方があります。
どちらの場合でも「時代」は「period」という英語になり、「the」という定冠詞が必要になりますので、そのまま「Sengoku」をローマ字で書くか、「Warring States」という英訳を使うかという選択になります。

「Warring States」のような英訳を使うメリットは、読者に情報をしっかり伝えられるという点です。
日本語の分からない人にとっては、「Sengoku」は意味不明な言葉ですが、「Warring States」という英語に対しては戦争や軍陣のイメージが湧いてきます。
そのため、戦国時代の戦に言及している文中では、その「戦」のイメージをより強調させたいため、「Warring States」という表記の使用が最適です。
例を見てみましょう。

【2020年 大本山永平寺 #021解説文より】
The carvings were produced during the Warring States period (1467–1568), a time of widespread social turmoil caused by fierce struggles between warlord-controlled domains throughout the country. During this time, the region around Eiheiji Temple was the site of several violent peasant uprisings.

【日本語訳】
線刻は、国中の領主たちが戦いあった戦国時代(1467〜1568)に作られ、この戦い広範な社会的混乱を引き起こした。永平寺周辺地域でもいくつかの農民の暴力的な反乱があった。

この抜粋の内容には赤字で示したように、「戦」に関連しているキーワードが多くあります。
読者はそれらのキーワードとともに登場する「Warring States」という時代名の意味を理解し、戦国時代が混沌としていたことを理解できます。

「The Sengoku period」の使い方

一方、伝統工芸など戦争と何も関係がないことを紹介している文中で急に「Warring States」のような英語が出てくると、読者が混乱してしまう可能性があります。
そう言った場合には、「Sengoku」という表記を使った方が望ましいです。
前述のように、「Sengoku」という言葉の意味は伝わらず、単なる固有名詞として捉えられるため、文の内容から読者の思考が逸脱することがありません。
例を見てみましょう。

【2018年 岐阜城 #030解説文より】
The roads that connected east and west Japan ran through Mino province (modern-day Gifu), and there was the saying during the Sengoku Period (1467–1568) that “If you control Mino, you control the nation.”

【日本語訳】
東西を結ぶ街道は美濃国(現在の岐阜県)を通っており、戦国時代には「美濃を制すれば天下を制す」という言葉があった。

この一文では美濃国の街道を説明しているので、内容として「戦」との直接的繋がりがありません。
そのため、戦のイメージが読者の思考を邪魔するのを避け、「the Sengoku period」と表記しています。

そもそも時代名を明記しない方が望ましい場合

しかし、場合によっては「時代」まで説明する必要がない時もあります。
実は、この4年間で作った解説文を調査すると、このパターンが一番多かったことが分かりました。

世界の多くの国々では西暦が使われており、日本ほど時代区分を明確に意識していない場合も多々あります。
そのため、外国人観光客にとっては「○○時代」と言われてもピンと来ないことがあります。
そういった場合には、その時代の期間を西暦で説明するか、何世紀ということのみを説明する方が望ましいと言えます。
例を見てみましょう。

【2021年 横手市 #008解説文より】
At the turn of the seventeenth century, Japan was embroiled in civil war. The Onodera family had taken the side of the eventual victors, the Tokugawa, but they made a critical error: as the Onodera armies returned from a campaign, they attempted to reclaim a neighboring territory that had been taken from them by another ally of the Tokugawa.

【日本語訳】
17世紀に入り、日本は内戦に巻き込まれていた。小野寺家は勝者である徳川家に味方していたが、戦地から戻ってきた小野寺家の軍隊は、徳川家の味方が小野寺家から奪った近隣の領地を取り戻そうとした。

この解説文では、小野寺家が領地を取り戻そうとして徳川家を裏切ってしまった話を紹介しますが、戦国時代(=内戦)がその背景として言及されています。
この説明を日本語で書くと「戦国時代末に」と始めるのが一般的ですが、外国人観光客にとっては「~世紀」という情報の方がシンプルで理解しやすいと考えられます。

以上、これまで観光庁の多言語解説整備支援事業において弊社が製作した解説文を題材として、英語で「戦国時代」という一つの言葉を扱う際には、大きく3つのパターンがあること、そしてそれらは解説文の内容や伝えたい事柄によって使い分ける必要があることについて説明しました。

今後もこのブログを通して、外国語での解説文制作におけるテクニックや注意点などについて知見をシェアしてまいりたいと思います。