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「文化的差異」という言葉を聞いたことがありますか?~グローバル化時代に必要不可欠な視点~

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H. Oikawa

21世紀に入ってからグローバル化が加速し、「グローバル人材」などという言葉が巷でよく聞かれるようになりました。
しかし、「グローバル人材」とは、一体どのような人々のことを指しているのでしょうか?英語ができて、いろいろな国に行ったことがあれば、その人はグローバル人材であると言い切れるのでしょうか?

今回の記事のテーマである「文化的差異」という視点は、この「グローバル人材」なる言葉の定義について考える際にも、とても重要なヒントを与えてくれます。

そして、弊社が専門としている多言語でのライティング事業においても、文化的差異について理解して取り組むのと、理解せずに取り組むのでは、完成品のクオリティに非常に大きな差が発生します

これからのグローバル化時代において重要なものであるのにもかかわらず、あまり世間一般で聞き馴染みのない言葉である「文化的差異」。

これは一体どのようなものか、早速説明していきましょう。

ハイコンテクスト(高文脈) vs ローコンテクスト(低文脈)

外国語で何かを伝えようとしたとき、「あれ?言いたいことは間違えずに正確に言えたのに、相手が理解できていないな?」と感じた経験はありますか?
もし答えがYesなら、それはあなたの言語運用スキルの問題ではなく、文脈(コンテクスト)に関わる文化の違いかもしれません。

ここで言う文脈とは、共有している情報・論理・感情と言い換えることができます。
世界を国ごとに低・高文脈文化に分類した以下のデータによると、私たちが住む日本は、実は世界でも最も高文脈文化な国であるとされています。

国ごとの低文脈・高文脈文化の分類、およびそれぞれの文化における「良いコミュニケーションの定義」
引用元:Meyer, E. (2014). The Culture Map: Breaking Through the Invisible Boundaries of Global Business (Illustrated ed.). PublicAffairs.
国ごとの低文脈・高文脈文化の分類、およびそれぞれの文化における「良いコミュニケーションの定義」
引用元:Meyer, E. (2014). The Culture Map: Breaking Through the Invisible Boundaries of Global Business (Illustrated ed.). PublicAffairs.


世界でも最も高文脈文化な日本

これは日本人同士での情報・論理・感情の共有範囲が広いことが理由です。
例えば、Aという事柄について誰かに伝えたいとき、その説明を部分的に省略してもコミュニケーションが成立することを意味しています。

このような高文脈文化におけるコミュニケーションでは、発信者だけではなく、受信者も大きな責任を担っています。
「言わなくてもわかってよ」や「本音と建前」といった考え方は、この高文脈文化の強さを象徴していると言えるでしょう。
これは、西洋と比較して他国から日本への人の流入が少なかったという歴史的背景や、明治維新後の中央政府主導での教育政策などに起因するものなのかもしれません。

高文脈文化とされるその他の国々としては、韓国、中国、インドネシア、ロシアなどが挙げられます。

低文脈文化の国々は欧米圏が中心

逆に、低文脈文化の国々の代表例としては、アメリカ、カナダ、ドイツ、オーストラリアといった欧米圏の国々が中心に挙げられます。
これらの国々は人種や宗教などの面で多様性が日本より強く、一口に「~人」と言っても、人によってその常識に大きな差があります

こういった低文脈文化においてうまくコミュニケーションを取るためには、発信するメッセージの論理構成をしっかり立て、明確に伝える必要があります
そのため、日本人が日本人相手に説明するときと同じ感覚で、言語だけ切り替えて同じことを伝えても、これらの国々の人々にはうまく伝わらないという現象が起きやすくなります。

低文脈文化におけるコミュニケーションの責任の担い手は発信者です。
これらの国々の人々が、大勢の前でも、分からないときに分からないとはっきり口にできるのは、受信者に大きな責任が発生していないことが大きいでしょう。

[Quiz]

では、ここでクイズです。
次のうち、最も勘違いが生まれやすい組み合わせはどれでしょう?

  1. 低文脈文化の人と低文脈文化の人
  2. 高文脈文化の人と高文脈文化の人
  3. 高文脈文化の人と低文脈文化の人

さぁ、実際にこれらの人々がコミュニケーションを取っている様子を想像しながら考えてみてください。

答えは・・・

2の「高文脈文化の人と高文脈文化の人」でした。

次の例を見てみましょう。
この例に登場する中国も、日本と同じく高文脈文化を持つ国です。

世界各国にオフィスを持つ企業の日本支社と中国支社の間で、ある共同プロジェクトを行うことになりました。
このプロジェクトで発生した外注先への支払いについて、日本支社から中国支社へ「この外注先への支払いを任せるので、そちらで処理しておいてください」と連絡がありました。
ところが数週間後、その外注先から日本支社へ、支払いが未完了である旨の連絡が入りました。
中国支社に確認を取ると、「できるだけ支払いタイミングを遅く、かつ値引いて支払う事が良い経理業務である」と認識していたことがわかりました。
これに対し、日本支社としては「外注先に予定通り支払いを行うことが良い経理業務である」という認識のもと、中国支社に外注先への支払いを依頼していました。

言わなくてもわかっているはずだから、説明や確認する必要も無いと思っていたことが原因で、後になってトラブルを生んでしまった例です。

ライティングにおける高文脈文化と低文脈文化

では、高文脈文化の日本語と、低文脈文化が多く、さらに非英語圏の様々な国の外国人にとっての共通言語でもある英語を比較した際、具体的にどんな違いがあるのでしょうか?

文章の構成

日本で教育を受けた人なら、誰しも一度は「起承転結で簡潔に述べなさい」と言われたことがあるでしょう。これは、同じ情報・論理・感情を共有している人々が相手であれば、正しいコミュニケーション方法です。つまり、日本人を相手に日本語でコミュニケーションするときの最適解です。
しかし、そうでない人々とコミュニケーションするときは、そうはいきません。英語では、起承転結ではなく、次のような文章構成を教育されます。

  1. テーマの紹介
  2. テーマについて補助する文
  3. 次の文への移行、もしくはテーマの再主張

1のテーマの紹介は「結論から言う」と言い換えることもできるでしょう。

これに対し、日本語の起承転結は、

  1. 起 背景や事前情報の説明
  2. 承 メイントピックへの移行
  3. 転 展開、何が起きたかの描写
  4. 結 結論

となっています。

英語と日本語の構成の違いを、以下の例文で比較してみましょう。

英語

プロモーションには、動画の活用が有効です
最近では、料理のレシピ、旅行先の情報なども動画で探すのが一般的です。
その理由として、ネット環境やスマートフォンの性能の向上によってオンライン動画の視聴者が増えた事、テキスト・画像のみの広告よりも動画は伝えられる情報が多いことが挙げられます。
動画を使ったプロモーションは、現在最も効果的な手法の一つです。」

日本語

「ネットの情報といえば、テキストと画像が主体でした。一方、動画はDVDなどで見るものでした。
近年、ネット環境も大きく変わり、スマートフォンも高性能化しています。その結果、多くの人がネットで動画を視聴するようになってきました。
たとえば、料理のレシピ、旅行先の情報なども動画で探すような人が増えているのです。
動画は、テキストや画像のみの広告より伝えられる情報が多く、現在最も効果的なプロモーション手法だと考えられます。

いかがでしょうか?
英語では結論を最初と最後に述べているのに対し、日本語では、一般的な事情から入り、出来事の順番通りに話が展開し、最後に結論がきます。
さらに、これも日本語の特徴ですが、「~だと思います」という表現を用いて、主張を和らげています。
これは、その主張が誤っている可能性を考慮した結果のようにも思えます。しかし、英語で同じような表現を用いると、それは主張ではなく、個人的な思考として、より弱い表現として受け取られます

英語でライティングをするときに意識すべきこと

ここまで読んでいただけた方々には、日本語を単純に英語に翻訳するだけでは、伝えたい事柄をうまく伝えられない可能性があることをご理解いただけたのではないかと思います。

上記の文脈の話題を踏まえつつ、ここからは、英語でのライティングを作成する際、具体的に意識すべきポイントについてお伝えします。

その1. 主張ははっきり書き、その根拠を明記し、曖昧な表現は避けるべし

先ほどの日英の例文で述べた通り、曖昧な表現は主張の強さを損ないます。
とはいえ、何の根拠もない主張は唐突すぎますし、誤りがあってはいけません。
そのため、観光・文化財ライティングでは、根拠を明示しつつ、はっきりとしたメッセージを伝えるため、学芸員や専門家の方々のご協力が不可欠となります。

その2. 能動態を優先的に使え

日本語では、主語がコロコロ変わることを良しとせず、「Aが~した」、「AがBに~された」というように、同じ主語を用いて、能動態と受動態を使い分ける傾向があります。

一方、英語にも受動態は存在するものの、「Aが~した」、「BがAに~した」というように、能動態を用いて、主語を使い分ける傾向があります(余談ですが、スペイン語なんかだとこの傾向はさらに強くなります)。

そのため、日本語の感覚で英語でも受動態を多用してしまうと、読み手に違和感を与えてしまい、わかりにくいものと受け取られてしまいます。

その3. 複雑な事象には、必要なスペースを割け

日本人が義務教育で大きな時間を費やして学ぶもの、それが漢字です。
子供の頃、漢字なんて無ければいいのにと思ったことは一度や二度ではありませんが、大人になってみると、漢字の恩恵を感じます。
なぜなら、聞いたことが無い言葉でも、漢字を見ればある程度の意味が推測できるからです。
英単語も、ものによっては何となく意味が想像できる場合もあります。
しかしネイティブであっても、知らない単語を見たとき、漢字の場合のように意味が推測できるということはほとんどありません。

そのため、英語ライティングで馴染みの無い言葉を使わざるを得ない場合、日本人の感覚よりも、その説明により大きなスペースを必要とする場合があることを理解しておく必要があります。

そして場合によっては、そもそも、その話題に触れるかどうかの判断も必要になってきます。
なぜなら、解説文を載せる媒体にもスペースの制約があるうえ、あまりに長すぎる文章は読み手のモチベーションを下げてしまうためです。

観光地の解説文看板の例
観光地の解説文が書かれた看板やパンフレットなどにはスペースの制約がある
その4. 同じ単語・表現の過度な繰り返しは避けろ

日本では同じ事柄を指すために、さまざまな異なる単語・表現を使用するのは、わかりにくいので避けるべきだと考えられます。

これはどの言語でも共通なものかと思いきや、英語の場合でこれをやってしまうと、いわゆるボキャ貧で、子供っぽい印象を与えてしまいます。

洗練された英語の文章の条件の一つは、同じ事柄でも幅広い語彙によって表現されていることです。

言語が変わると、変わるのは言葉だけではない

今回は英語を例にとって解説を行いましたが、これが他の言葉になると、また別の問題が発生します。
しかし、日本人が書いた日本語文を外国語に翻訳するだけでは伝わらない領域が存在するということはお分かりいただけたのではないかと思います。

もちろん、外国語でのライティングの際に気を付けるべきポイントは今回お伝えしたことのみに限りませんが、これらを意識するだけで、完成した文章は全く違うものになるはずです。

そしてこれはライティングに限らず、外国語で会話をするときにも大事なポイントです。
冒頭で「グローバル人材とは」という問いを投げかけました。
この言葉は、単に外国語ができて、海外経験豊富な人を指すのではなく、今回お伝えした「文化的差異」を理解し、相手によってコミュニケーション方法を切り替えることができる人材のことを指すのではないでしょうか?

また、低文脈か高文脈かを決定づけるものは国籍だけではありません。
コミュニケーションをする相手や所属するコミュニティによっても、低文脈・高文脈の文化は切り替わります。

このことを理解しておくだけで、外国語を扱う際のみならず、普段の身の回りのコミュニケーションが円滑に進む手助けとなるでしょう。

参考文献:
  • Kim, E. (2017, November). Academic Writing in Korea: Its Dynamic Landscape and Implications for Intercultural Rhetoric. The Electronic Journal for English as a Second Language. http://www.tesl-ej.org/wordpress/issues/volume21/ej83/ej83a3/
  • Kimura, K., & Kondo, M. (2004). Effective writing instruction: From Japanese danraku to English paragraphs. Copyright © 2004 by Kazumi Kimura and Masako Kondo. https://hosted.jalt.org/pansig/2004/HTML/KimKon.htm
  • Kitano, H. (2000). Cross-cultural differences in written discourse patterns : A study of acceptability of Japanese expository compositions in American universities. doi:10.15760/etd.5968
  • Mckinley, J. (2019). Teaching Japanese L2 Writing Inside and Outside Japan: Implications for Global Approaches in L2 Writing. In L2 Writing Beyond English (pp. 60–77). Multilingual Matters. https://doi.org/10.21832/9781788923132-007
  • Meyer, E. (2014). The Culture Map: Breaking Through the Invisible Boundaries of Global Business (Illustrated ed.). PublicAffairs.
  • Suzuki, S. (2011). Perceptions of the Qualities of Written Arguments by Japanese Students. Written Communication, 28(4), 380-402. doi:10.1177/0741088311420798
  • The University of Adelaide. (2019, November 20). Essays in Different Academic Cultures | English for Uni | University of Adelaide. ESSAYS IN DIFFERENT ACADEMIC CULTURES. https://www.adelaide.edu.au/english-for-uni/essay-writing/essays-in-different-academic-cultures
  • Wakabayashi, J. (2020). Japanese–English Translation. doi:10.4324/9781003018452

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