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Sake On Air 最新エピソード解説「#38: Hot Sake (Kanzake) 101」

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H. Oikawa

こんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。

本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「#38: Hot Sake (Kanzake) 101」の解説をお届けします。

今回のホストはChristopher PellegriniさんJustin PottsさんChris HughesさんMarie Nagataさん、プロデューサーは弊社のFrank Walterです。

【今回のエピソードのキーワード】

  • proponent:支持者、提唱者。
  • lukewarm:ぬるい。
  • dilute:薄める。”sake-kasu diluted in hot water”で「酒粕を溶かしたお湯」という意味になる。
  • collapse:壊れる、崩れる。
  • ~ acid:~酸。例)malic acid = リンゴ酸、lactic acid = 乳酸、succinic acid = コハク酸

 

【ホスト達と燗酒】05:25~

今回のエピソードは、各ホストそれぞれの燗酒との出会いに関するストーリーの紹介から始まります。

Marieさん:酒のプロフェッショナルとして歩み始めたばかりの頃、特に興味関心があったジャンルは吟醸酒や香り豊かな酒でした。

燗酒についても知ってはいましたが、彼女自身にとっても、また彼女の酒に関するレクチャーを受けている人々にとっても、熱燗まで語ることは”too much information”であると考えていました。

また、 「一番お気に入りのボルドーワインでホットワインを作ったりしない(you don’t want to make mulled wine with your best Bordeaux)」のと同じように、燗酒もクオリティの劣る酒で造るものだという考えがありました。

Chrisさん:燗酒を初めて知ったのは映画『007は二度死ぬ』を観たときでした。その後ロンドンの和食材の輸入卸業者に勤めていた頃、杜の蔵酒造の方に燗酒の美味しい作り方を教えてもらう機会がありました。

Christopherさん:初めてアメリカで飲んだ燗酒は、温めすぎて美味しく感じられませんでした。その経験により、現在でも熱燗を作るためのお湯が入った容器がカウンターに見えないお店では熱燗は頼まない主義です。お湯割りは真夏でも飲みたくなるほど大好きです。

Justinさん:人に教えられて初めて燗酒を飲んでみた時、それまで味わったことのない日本酒の新たな味に衝撃を受けました。この経験が燗酒のファンになったきっかけでした。

 

【燗酒の付け方】12:00~

燗酒を付ける光景はとても興味深いものがあり、それ自体がdining and drinking experienceの一部を形作っていると言っても過言ではありません。そして家で自分で燗を付ける作業もまた楽しいものです。ちなみに、Marieさんは自宅で蓋付きの陶器製ティーカップを使って熱燗をつけているそうです。もし日本酒の熱燗を作るための道具が手に入らない場合(特に海外で)は、このようなティーカップで代用が可能です。

燗を付ける際に電子レンジを使用することは好ましくないと考えられがちですが、ホスト達は本当の問題はそこではないと指摘します。

本当の問題は、温度を管理できないために美味しく味わえる最適な温度を超えてしまうことにある。そのため、電子レンジでも「この酒でこの強さでこの時間温めればちょうどよい」ということさえ把握できれば問題無いと述べています。

燗を付けるための道具で、かんすけという有名な商品が存在します。

画像引用:サンシン

この茶色の容器で温度をセットすると、中に入ったお湯の温度を一定に保ってくれます。そこに徳利やちろりという酒の入った容器を入れて温めるという仕組みです。

sous’vide(真空調理法、もしくは真空低温調理法)も同様に、温度を一定に保ったお湯を使って加熱する調理法で、ネットで「低温調理器」などと検索すればたくさん商品がヒットします。これらのツールを使うことで、好きな温度で確実に燗を付けることが可能です。

 

【燗酒を飲む】20:19~

徳利は陶器もしくは磁器でできているため、温まるのもゆっくりですが、一度温まってしまえば冷めるスピードもゆっくりというメリットがあります。

一方、銅やアルミでできたちろりは早く温まり、早く冷めるという特徴があります。また燗酒を冷まさずに味わうためにはおちょこを温めるというのも有効な手段です。そしてもっと言ってしまえば、手を温めておくというのも、燗酒の温度低下を防ぐのに役立ちます。

やかんなどに入れて直接火にかけて燗を付ける方法もありますが、これも時間がかからないメリットはあるものの、全体を均一に温めることが難しいというデメリットがあります。その他にも、電気式の熱燗器や、均一に温めることができるものの、長い時間と道具が必要になる蒸気で燗を付ける方法もあります。

お酒を飲む際に使う、小さな平たいお皿のようなもの(時代劇などでよく見るやつ)を平盃といいます。これは燗酒が冷めやすい形状で、一杯で少量ずつしか飲めないものの、むしろその特徴によって酒を一口ずつ丁寧に味わうのに適していると言います。

 

【燗酒の歴史】32:07~

今では当たり前となっている冷酒ですが、これは冷蔵庫が発明される以前には存在していませんでした。それ以前は燗酒か常温の酒が普通で、居酒屋で酒を注文するときなどに使う「ひや」という言葉は常温を意味する言葉でした。

燗酒の一番古い記録は万葉集に収められた山上憶良の詩です。

「風雑へ 雨降る夜の 雨雑へ 雪降る夜は 術もなく 寒くしあえば 堅塩を 取りつづろい糟湯酒 うち啜ろひて 咳かい 鼻びしびしに」

ここで出てくる糟湯酒は、酒粕をお湯に溶かしたものです。平安時代の日本人にも影響を与えた唐の詩人、白楽天(白居易)の詩にも度々燗酒が登場します。

927年に編纂が完了した法令集『延喜式』にも炭火と専用の酒器を使って燗を付ける方法が記載されており、貴族の間で燗酒が頻繁に飲まれるようになった様子がわかります。

江戸時代の本草学者で、福岡藩士の家に生まれた貝原益軒はその著書のなかで述べています。

「酒は冷たすぎても熱すぎても胃腸に良くない。ぬる燗(ゆる燗とも言う)がちょうど良い」

江戸時代中期にはちろりや徳利といった酒器が一般大衆の暮らしの中に登場し、従来は失礼にあたると考えられていた客人の前でちろりから徳利に酒を移し替える行為が普通に行われるようになり、サービスとしての燗酒の発展に繋がりました。

現代ではほとんど見かけなくなった「お燗番」という役割が生まれたのも江戸時代でした。お燗番とは、季節や客の好みから酒を選ぶ役割を担う人のことで、懐石料理と強い結びつきがありました。お燗番になるためには資格は必要ありませんが、独自に資格を発行している酒造もあります。

戦後、酒を冷やして飲む習慣が広く普及しました。カンペットという熱燗器が1961年に発売されました。しかしその後は70年代中盤の地酒ブーム、80年代の吟醸ブームを経て冷酒がポピュラーになり、燗酒は家飲み以外ではあまり見られなくなっていきました。

 

【燗酒に適した酒・適さない酒】43:10~

昔から普通酒や本醸造酒は燗酒に適していると言われてきました。しかし今では純米酒も燗を付けるとうまみを引き出すことができるとされ、燗酒としてよく飲まれるようになりました。「生酛造り」や「山廃仕込み」の酒も同様です。

反対に、燗酒に適さない酒は香りの高い吟醸酒です。吟醸酒を温めると、その香りのもととなるエステルという成分が壊れ、アロマが失われて酸味だけが残ってしまうそうです。しかし、醸造技術の進歩により、このように温めても成分が損なわれない酒が増えているのは確かだそうです。

 

【酒の温度の分類】49:13~

酒は温度によって異なる呼称が存在します。

名前 温度
飛切燗 55度以上
熱燗 50度
上燗 45度
人肌燗 35度
日向燗 30度
常温 20度
涼冷え 15度
花冷え 10度
雪冷え 5度

これらのうちのいくつかは以前から使われていた呼称ですが、涼冷え、花冷え、雪冷えは兵庫県の沢の鶴酒造が使い始め、それが世間一般にも広がった呼称です。

 

【生酒、樽酒と燗】49:13~

生酒はその名称から燗酒として飲む酒ではないと思われがちです。年数の若い酒は温めると苦みが出やすいですが、実は年数を重ねた生酒は燗を付けても美味しく飲むことができます。

樽酒も燗酒に適しています。また甘口、辛口の酒も燗酒に適していますが、甘口の酒の場合は、酒に含まれるグルコース(ぶどう糖)が分解しない温度である40℃程度で飲むのがおすすめです。辛口の場合は50~60℃でも味は損なわれません。

 

【燗上がり・フードペアリング】57:22~

「燗上がり」という言葉があります。これは、燗を付けることによって、日本酒の味がより美味しくなる現象を指します。

日本酒を温めると、一般的に酸味は変化しませんが、味にネガティブな影響を及ぼす成分が弱まります。40℃程度がアルコール成分が際立ち、甘みが増す温度です。

燗酒はフードペアリングを容易に楽しむことができ、特に脂質を含む料理と相性が良いとされています。これは冷旨酸と温旨酸というフードペアリングの概念が関係しています。

 

【最後に】62:15~

燗酒に対する誤解は未だに多く存在しているように思えます。

これは品質の良くない酒を燗酒にして飲めるようにしてきた歴史が関係しているのではないかと推測されます。

しかし、醸造技術が進歩した現代では、以前のように品質の悪い酒もほとんど見られなくなりました。燗酒は低品質の日本酒を飲むための方法から、日本酒の味わいを広げ、フードペアリングをより楽しむための方法へと変化しました。

燗酒を試したことのない人も、ぜひ燗酒にチャレンジしてみてください!

 

【編集後記

私の個人的な体感だと日本の居酒屋でさえも、正しい燗の付け方を知らないケースはかなり多いのではないかなと思います。日本酒をウリにしている居酒屋でない限り、徳利を電子レンジに入れて、細かい温度基準は設定せずに温めて熱燗として提供している場合も多いのではないでしょうか。かくいう私も今回のエピソードを聴いて初めて正しい燗酒の作り方を知った一人です。

また海外でもティーカップで燗酒を作れるといったアドバイスもあったので、海外でこのPodcastを聴いてくれている外国の方が燗酒を楽しむための参考にしてもらえたら嬉しいなと思います。

 

【SOAについて】

SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。