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令和3年度観光庁予算から考える観光業の行方 – 出国税による税収大幅減の影響は大きく、文化庁のインバウンド関連予算は観光庁予算に一括計上

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H. Oikawa

昨年12月末に観光庁から令和3年度の予算概要が発表されました。本予算の主な項目は以下の3つです。

  1. 観光産業の再生と「新たな旅のスタイル」の普及・定着(17億1700万)
  2. 国内外の観光客を惹きつける滞在コンテンツの造成(177億7200万円)
  3. 受入環境整備やインバウンドの段階的復活(208億2100万円)

合計で約400億円となり、令和2年度の当初予算約680億円と比較して約40%減少しました。
やはり2019年の創設以来、我が国の観光政策の大きな財源となっていた国際観光旅客税、いわゆる出国税による税収の大幅減が大きく影響しているようです。

なおこの出国税を財源として、文化庁でも今年度までは「日本文化の魅力発信」や「文化財多言語解説整備事業」などのインバウンド関連事業に予算を割り当てていました。しかし、来年度の概算要求では「観光庁に一括計上し、予算編成課程において内容が精査される」としています。
(出典:「令和3年度文化庁概算要求の概要」)

予算が前年度比で半分以下に削減された事業
  • 円滑な通関等の環境整備:約35億円→約5億円(85%減)
  • デジタルマーケティング等による先進的プロモーションの実施:約63億円→約18億円(75%減)
  • 公共交通利用環境の革新等:約44億円→約12億円(72%減)
  • 空港におけるFAST TRAVELの推進:約31億円→約12億円(60%減)
  • 観光地の「まちあるき」の満足度向上:約25億円→約10億円(59%減)
  • 地域観光資源の多言語解説整備支援事業:約10億円→約5億円(56%減)
  • 円滑な出入国の環境整備:約82億円→約40億円(50%減)
予算が割り当てられなかった事業
  • ナイトタイム等の活用による新たな時間市場の創出:前年度予算10億円
  • インフラ等の地域資源活用・クルーズ寄港促進事業:前年度予算約13億円

インバウンド関連事業は軒並み予算カットも、重点的に取り組んできた事業には引き続き注力

コロナ禍で外国からの観光客受け入れ再開時期が不透明なこともあり、「デジタルマーケティング等による先進的プロモーションの実施」(75%減)や「円滑な通関等の環境整備」(85%減)、前年度では3番目に多い約82億円が割り当てられていた「円滑な出入国の環境整備」(50%減)といったインバウンド関連の事業は予算大幅カットの対象となりました。

しかしながら、「戦略的な訪日プロモーションの実施」に依然として73億円(15%減)が割り当てられているほか、「文化資源を活用したインバウンドのための環境整備」に約70億円(29%減)、「国立公園のインバウンドに向けた環境整備」に約50億円(28%減)が割り当てられ、今まで継続して行ってきたインバウンド拡大のための取り組みには、引き続き注力していこうという意思が見えます

さらに「新たなインバウンド層の誘致のためのコンテンツ強化等」にいたっては、前年度比150%増の約22億円と、現在のコロナ禍の状況を、将来の訪日旅行客のパイを広げる機会として活かそうという狙いが見えます

コロナ禍が新たに生み出す社会・観光業のカタチ

コロナ禍によって予算が削減された事業以上に目立つのが、新規に予算が割り当てられた「『新たな旅のスタイル』促進事業」と「DXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出」です。

前者は国内旅行を対象とした事業で、「新たな旅のスタイル」、すなわち、ワーケーションや休暇取得促進によって、長期間の滞在型旅行を促進していくことなどを目的としています。
これにより、シーズナリティ(観光旅行が特定の時期に集中すること)や、低い有休取得率に起因する旅行期間の短期化といった日本の国内旅行、ひいては日本社会にとっての長年の課題を改善することを目指しています。

「新たな旅のスタイル」促進事業

後者はオンラインツアーなどのコロナ禍の状況でも行える観光商品やマーケティングチャンネル造成のほか、5G、AR・MR、ビッグデータ活用などの新たなテクノロジー活用による観光サービスの体験価値向上や、収益増加を目的とした事業です。

DXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出

令和3年度はインバウンド復活に向けた足場固めの年に

冒頭で述べたように、出国税による財源の不足により、観光庁の来年度予算は前年度比約40%減と、大きく削減されることとなりました。
しかもこの数字は、これまで別で計上していた文化庁のインバウンド関連事業予算も含めての数字なので、我が国で来年度のインバウンドに使用できる実際の予算はさらに削減されていることになります。

しかし訪日観光客の受け入れを再開できない状況下にあっても、オンラインを中心に引き続きプロモーションは展開され、さらに受け入れ再開後を見据えた国内の観光環境整備が進められていくでしょう。

またインバウンドだけではなく、日本人の国内旅行スタイルやワークライフバランスの変化がどれだけ進んでいくのかにも注目です。

※本記事内の図はすべて「令和3年度観光庁関係予算決定概要」より引用