翻訳で、「60歳を超えた男性は口を揃えてチトー(かつてのユーゴスラビア大統領)時代を懐かしむ。」という原稿がありました。翻訳者によると「男性(“Man”)」とわざわざ表記すると性差別的になるかもしれない。”People”という訳ではどうかと言われたので、お客さまに以下のように伝えました。

「”Man”ですが、”People”でもよいかと思います。文化的な背景(チトーが特に男性にとっての英雄だった、等)で敢えて男性に限定してあるということでしたら”Men”のままでもよいかと存じます。」

すると、この時の時代背景等についてお客さまからご説明をいただきました。
それによると、第二次世界大戦からの国の再建の際、Working Actionという再建プログラムが企画され、主に男性が道路や鉄道等のインフラ整備に従事していたそうです。「友愛と団結」のスローガンのもとで、各共和国の住民が民族や宗教の差異を超えてボランティアベースで団結し、国の再建に貢献していたそうです。
ユーゴスラビア内戦は民族や宗教が原因となって勃発したため、民族や宗教を超えて団結していたチトー時代を知る60歳以上の男性には、チトー時代に対して特別な思いがあるそうです。

日本語では「女性に優しい」「女性でも安心」等の表現がよく広告文やコピー文に使われますが、英語圏では差別的だと受け取られる場合もあるため、翻訳の確認をしているとついついそのような表現を修正(ポリティカル・コレクトネス)するようにおすすめしてしまいがちです。ですが、歴史を汲んだこれだけ強い思いがあるのならそれを最大限に翻訳に生かさなければと思いました。